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家で1人(赤坂 side)

ベッドの上に寝転び、1人今日の出来事を思い返していた。 『赤坂、可愛い。僕だけにその声を聞かせて……?』 甘くとろけるような黒井の囁き声。一体あれは何だったんだろうか……。服を脱がされ、乳首を触られキス寸前。挙句の果てにはパンツを見せろと言われる。黒井はすぐ抱き着いてきたり顔を近づけてきたりするけど……ただの甘えん坊だと思っていた。今日のあれもその1つなのか……? 思い出すと恥ずかしさで顔が熱くなる。冷房をガンガンに効かせているのに。黒井、お前みたいなやつは初めてだよ……。 あの美少年の素顔は、変態なのかもしれない。小さい頃にも女のスカートめくったり着替えを覗くガキがいたけど、黒井はそれとは違う気がする。少なくとも人と話すのが得意じゃないのは本当だろうし、そんなあいつが女にちょっかいかけてるとは到底思えない。かと言って黄崎とかにもベタベタしてる感じはしない。裏でやってるのかな……。 俺に対して、黒井は距離が近い。それは信頼の証?そのスキンシップとして、乳首触ってくるのか?黒井の真意が読めない。 それに対して俺は……もちろん黒井に親しみを感じている。俺もみんなでわいわい……てのが苦手で友達関係も付かず離れずが多いから、黒井は1対1で落ち着いて話せる。目線も歩幅も俺に合わせてくれるから、変に自分を作らずに自然体でいられる。 今日のことを思い出して、また顔が火照る。黒井の可愛い顔やちょっと妖しげな顔が浮かぶ。黒井に触れられた部分が熱を帯びていく。 「やばいな、俺……」 額に手を当てる。黒井が変態なら、それに応える俺も変態だ。体を触られて不覚にも反応してしまった俺はドMなのか。 ――ピロン♪ 顔の横にあるスマホの音が鳴る。メッセージが届いていた。 『おつ。明日数学のテスト勉強に付き合え。異論は認めん。以上。』 黄崎からである。何だこいつは。急にテスト勉強に付き合えって……。しかも決めつけんなよ。まあもうすぐ夏休みで怒涛のテスト期間もあるしな。明日は特に予定もないから付き合ってやるか。 返信をしようとすると、もう1通追加でメッセージが来た。 『あと、今日は騒がしくして悪かったな。』 あのツンツンした黄崎が謝ってきた。これは驚きだ。というか今日って昼休みの件だよな?全然気にしてないし、そもそもあいつ何も悪いことしてないよな。意外とあいつもそういうの気にするやつなのかな? しかしその気持ちは即座に薄まった。 『……と、きちんとごめんなさいが言えるオレ、かっこいいわぁ!』 「どこがかっこいいんだよ」 思わず独り言を言う。最後の一文で台無しだ。しかもドヤ顔のキャラクターのスタンプまで送られてきた。めちゃくちゃ気持ち悪いことで有名なキャラの。キモイなこのスタンプ。わざわざ金出して買ったのかよ。ホント、真面目なのかバカなのか……。 あいつ今日ずっと裸だったな。家でもあんな感じなのか?腹筋もかなり割れてて男の俺でもドキッとしてしまった。女達も惚れ惚れするだろうな。 黄崎も俺を顎クイしたり顔を近づけてきたりする。挑発でもしてるのかな。心配しなくても俺はお前には勝てないよ。 ふざけた面が多い黄崎だけど、たまにちゃんとしたことも言う。今日も取り巻き達が黒井にセクハラ発言をし、黒井も黒井で下ネタで返すというアホみたいなやり取りをしていたが、黄崎は華麗にスルーしていた。それに、黒井が俺にパンツを見せろと言ってきた時も同調しなかった。普段なら何でも悪ノリしそうなのに。口は悪くても一応あいつもしっかりしてるところがあるんだな。 何だか笑えてきた。俺は軽く笑いながら返事を打っていった。 数分後、またスマホの通知音が鳴った。黄崎か?返信早いなあいつ。スマホを手に取ると、それは黄崎からではなかった。 『赤坂〜!今日も1日お疲れ様! もう少しで夏休みだね。と言っても補習があるからあんまり休みじゃないけど……。でも、赤坂に会えるのは嬉しい!テスト期間も始まるけど、お互いほどほどに頑張ろうね! じゃあ、また明日。おやすみ〜!(ハート)』 吹き出してしまうくらい可愛い文面。黒井だ。こいつは特に用事がなくてもたくさんメッセージを送ってくる。しかも結構絵文字が多い。たまに女だと錯覚することがある。俺は長文を書くのが苦手で素っ気ない文章になりがちだが、黒井は「一言だけでももらえるの嬉しい!でも返事は無理にしなくてもいいよ〜!」と言ってくれるから、そこに甘えて短文を送っている。 そういう面も可愛いと思ってしまう。俺はまるで子離れできない親みたいだ。 でも、今日の出来事で少し変わった。あんな恥ずかしいものをさらけ出していながら、俺は黒井に対してドキドキしていたんだ。これが何なのかはわからない。黒井が何を考えているのかも見当もつかない。ただ、俺のこの気持ちは負の感情ではないことは明らかだった。 不快な気持ちなんて何一つないのに、どこか釈然としない。そわそわと落ち着かない。とにかく必死に黒井に返信した。 「よし、ゲームしよう」 とりあえず頭をすっきりさせるために、オンラインゲームをすることにした。しかしなかなか手につかず、敵に煽られ全国9位から11位にランクダウンしてしまった。

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