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家で1人(黄崎 side)
『おつ。明日数学のテスト勉強に付き合え。異論は認めん。以上。』
『あと、今日は騒がしくして悪かったな。』
『……と、きちんとごめんなさいが言えるオレ、かっこいいわぁ!』
3つのメッセージを赤坂に送り、スタンプも添えておいた。女子からおすすめされて買ったスタンプだが、このキャラキモイよな。オッサンが猫化したスタンプ。女曰くキモカワイイらしい。それもはや可愛くないだろと思うのはオレだけだろうか。
もう既読が付いて、オレは慌ててトークを閉じた。何だよこいつ、いつもは返信遅いくせに。しかし既読を付けておいてなかなか返事が来ない。勉強教えろ、異論は認めんって言っただろ?断るなんて許さないからな。むしゃくしゃして何度も電源を入れ直す。
あいつ、オレの上半身見た時動揺してたな。少しはドキドキしてくれたんだろうか。いや、そもそも赤坂ってノンケだよな。じゃあ男の裸なんか興味ねぇよな……。クソっ、いつものオレらしくない。もっと自信を持ちたいのに、あいつのことになると途端に弱気になる。
オレのダチが黒井をからかっていた時、赤坂は真っ先に止めていた。何だか腹立たしかった。何であいつを庇うんだよって。その後黒井が訳わからん下ネタを言い出した。この前黒井の本性を知ったから、何とも言えない気持ちになった。美少年の裏に隠したとんでもない変態野郎。思わずバラしてしまいそうになったが、そんなことをしても意味がないからオレはさっさと退散することにした。
それからしばらくはサッカーしてたんだけど、オレは気が気じゃなかった。更衣室に赤坂と黒井がいる。黒井はド変態だぞ、赤坂に何もしない訳がない。もしかしたら発情した黒井が襲いかかるかもしれない……。そう思うといても立ってもいられなかった。サッカーに集中できず、顔面にボールをくらったりした。
だめだ。あいつを野放しにしちゃ。赤坂のケツは俺が守らなきゃ……!オレは急いで更衣室まで走った。
で、そこにいたのは全く着替えてない黒井と、上半身裸の赤坂。オレの中で時が止まった。今まで散々体育の授業があったのに、こいつの裸を見るのは初めてだった。というか意識したこともなかった。体細いし腹筋はほぼ割れてないけど、それはやっぱり女とは違っていた。いつもは秘めてる赤坂の体に、オレは思わず何度見もしてしまっていた。
しかし次に不安が襲ってきた。この状況、黒井が何も感じないなんてありえない。あいつ本当に襲いかかってたんじゃないか……?そう考えるともやもやイライラし始めた。わかんねぇけど真相は知りたくなかった。
その後あのアホが赤坂にパンツを見せろとかほざいてた。流石に酷すぎた。しかもオレを便乗させようとしていた。何で赤坂のパンツなんか見る必要あるんだよ。んなもん興味……ねぇし……。
まあ、そんな1日だった。黒井が赤坂に何かしてたら……そんなことを思うと嫌な感情が湧き上がってくるが、それと同じくらいあいつの体が頭から離れない。全然鍛えてもないし、男の体なんかいらねぇのに……。
1人ベッドであれこれ考えていると、ようやく通知音が鳴った。
『俺が暇なの前提かよ。まあ明日は確かに空いてるからいいよ。放課後だよな?』
『別に全然いいよ。お前悪い事してないだろ。』
『お前もいいやつだなって言おうとしたけど撤回するわ。』
相変わらず短文な赤坂のメッセージ。オレ様のメッセージにたった一文で返すとは……って最初は思ったけど、今ではそれが赤坂らしいのかなって感じてきた。スマホを強く握り締める。
体を起こし、机に向かう。1冊のノートを開いてペンを手に取った。
『たった一文。それでもよかった。
君からの言葉が私を動かすの。
私と言葉を交わすこの瞬間だけは
私のことだけを考えていて欲しい。』
赤坂のくせに。地味なやつのくせに。オレをこんな気持ちにさせんなよ。
今年の夏は、去年までと少し違う季節になりそうだ。
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