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夏休みと部活(赤坂 side)

小学生の頃は夏休みは「The・休み」って感じだったが、高校生の今は名ばかりのものだと思う。夏休みとはいえほぼ毎日補習がある。いつもより早く終わる補習だけど、朝早く起きなきゃいけないことに変わりはない。 黄崎は毎回ノートを借りに来るし、黒井は毎日挨拶に来る。で、2人はよくバトってる。いがみ合いながらももはや仲がいいのではないかと思う。 そこまではいつも通りの日常。普段なら補習が終われば帰るのだが、今日は少し寄る場所がある。 久しぶりの美術室。最後に来たのは黒井びしょ濡れ事件の時か。その間で飾ってある絵が少し変わっていた。 「あっ、赤坂くん。ちゃんと来てくれたのね」 「ああ、流石に来なさすぎたからな」 部屋にはすでに女子部員達が集まっていた。実は美術部、現在男は俺だけだ。入部当初は1人男の先輩がいたけど、もう卒業してしまった。 「部活なんて久しぶりだ。みんなはよく来てるのか?」 「うーん、たまにくらいかな。暇な時とかに何人かで女子トークしてるの」 「腐トークメインで」 「うん、どのBLシチュが萌えるかとか、どのCPがいいかとか話し合ってる」 「それは家帰ってやれよ……」 美術部の活動とは一体。まあ俺は来てすらないから何とも言えないが。こんなことしてても先生は何も怒らないから神だよな。 今日俺が部室にいる理由。それは、顧問の先生から呼び出しがあったからだ。元々美術部は活動がめったになく、ほぼ帰宅部と変わらない。女子達はたまに絵を描きに来たり駄弁るためにここに来ているらしいが、俺はアウェイ感が半端ないので来るのは招集がかかった時くらいだ。 「ところで赤坂くん。あんたに聞きたいことがあるの」 「え?」 「黒井様や黄崎くんとはどういう関係?」 「What!?」 急に黒井や黄崎の話題を振られる。何を聞いてるんだこいつら? 「ど、どういう関係って……。2人とも普通にクラスメイトだけど……」 「嘘よ!絶対付き合ってる!」 「どっちと付き合ってるの?黒井様?黄崎くん?それともセフレ?3Pしてるの?」 「全部違う!!」 何なんだよこいつら!何で男と付き合ってるんだよ!あとセフレとか3Pとかやめろ!何を勘違いしてるんだ?黒井はともかく黄崎は絶対ノンケだろ。 「だって、最近2人とすごく仲いいじゃない?」 「しかも黒井様とは修学旅行の時同衾したんでしょ?」 「ボディタッチも多いし……これは何かあったに違いないって」 なんつーこと言い出すんだ。あと同衾したの何で知ってんだよ。違うクラスのやつらにまでバレてる。腐女子の情報網、恐るべし。 「どっちとも付き合ってないしセフレでもないし3Pもしてない」 「ふーん。じゃあどっちが好きなの?」 「いや、好きとかそんな……」 「黒井様は綺麗なお顔立ちなのに、ヤル時はどっぷりヤルタイプの方よね」 「黄崎くんはオラオラ系のツンデレだけど、攻める時は超素直に愛の言葉をかけてくれそう」 女共は顔を見合わせた後、同時に言った。 「「つまり、赤坂くんは総受け!!」」 「ふざけんなっ!!」 散々な言われようだ。この美術部員達は毎回誰かをカップリングさせる。ついには俺までもターゲットになってしまった。ああ、早く先生来ないかな。 「そういや、先生は俺達に何の用事なんだ?」 「さぁ?そろそろ真面目に部活やれって校長に怒られたとか?」 「それはありえる」 今の校長は結構部活動に熱を入れている。美術部は割と楽そうだから入部したのに、毎日来いとか言われたらちょっと面倒だな。メンバーは別にいいんだけど、単にゲームしたいのと宿題が終わらないという理由で。 「先生の大事な話とかかしら?」 「大事な話って、『結婚する』とか?」 「えーっ!?先生結婚しちゃうの?誰と!?」 「『実は……赤坂くんと結婚するんだ……』とか?」 「キャー!!教師×生徒の禁断の恋!!」 「おい!変なこと言うなよ!!」 こいつらはまた俺を餌食にし始めた。先生まで巻き込むなよ。てか生徒と教師の関係以前に男同士での結婚は無理だぞ。 「先生ってかっこいいのに何で独身なのかな?」 「やっぱり本命は男なんじゃない?」 「先生って魔法使いだと思う?」 「そうかも!あ、でも女には童貞捧げてないけど、男には捧げてそう」 「先生って攻め?受け?」 「案外受けかもよ?だとしたら童貞非処女ってこと?」 またしてもキャーキャー騒ぎ出す。お前ら……これ先生に聞かれたら怒られるぞ。下ネタのオンパレードだ。 でも確かに、先生は独身だという。結構意外なんだよな。かっこよくて優しくて絵も描けて……。完璧すぎて逆に遠慮されてるのかな。 そんなことを考えていると、部屋のドアが静かに開いた。現れたのは高身長の男性。艶のある黒髪にスーツ姿。いかにも“できる男”だ。男性は革靴のヒールの音を美しく響かせ、俺達の前へ歩いてきた。その音だけでも色気を感じさせるものだった。 そう、彼こそが我ら美術部の顧問・橙堂《とうどう》輝《ひかる》。38歳独身。見た目は20代に見えるほど若々しい。甘い顔立ちから美術部員だけでなく、他の部活の生徒からもかっこいいと密かに言われている。 先生は部員の前で立ち止まり、閉じていた唇をほんの少し開いた。 「ごめんね、夏休み中に呼び出して」 僅かに唇の端を上げ微笑む先生。優しく温かな表情と、小さくて心地のいい声が女子達の人気ポイントだ。 「先生!もしかして重大発表ですか!?」 「結婚するんですかっ!?」 「相手は誰ですか?赤坂くん?」 「赤坂くんを犯したんですか?」 「犯坂くんを犯した!?」 「お前らマジでやめろ!!」 やかましい女共に俺はツッコミを入れた。先生に向かって遠慮がないし、結婚相手が俺とか意味不明だろ。あと誰が犯坂だ。しかし先生は優しい笑顔を絶やさない。 「あははは、実はその通り、犯坂くん……いや、赤坂くんと結婚するんだ」 「「キャー!!先生ついに結ばれたんですね!!」」 「やめろ!つか先生まで乗らないでくださいよ!」 この先生、生徒からおもちゃにされても怒らないどころか一緒になってボケてくる。そのせいで余計女達が調子に乗る。まあ、そこが先生のいいところなんだけどな。てか先生まで犯坂って言うな。 またいつものクールな表情に戻ると、先生は本題に移った。 「冗談はさておき、今日俺が呼んだのは、秋にある展覧会についてなんだ」 そう言って先生は資料をみんなに配った。 「そういや去年もありましたね」 「その展覧会に出す絵を描け、ってことですか?」 「うん、そういうこと」 なるほど、展覧会か。去年は確かいい加減な風景画を描いて出した気がする。周りの女子は絵が上手いけど、俺は楽さ目当てで入部してたから絵は全然上手くない。困ったなぁ。描ける自信がない。 「テーマは何でもいい。人物画でも風景画でもポスターでも、著作権に引っかからないものなら。締め切りは9月末だから、それまでに俺に提出してくれたら大丈夫」 「先生、何でもいいってことは、BLイラストでもいいんですか!?」 「露出が多くなくてライトなものだったらね」 「マジで!?私描こうかな?」 「なら私も!」 こいつらアホだろ。展覧会にBLイラスト描くなよ。先生もそこは止めてくれよ。もう俺以外に暴走を止めるやつはいなかった。

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