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第6話
(怖い人だ)
透は撤収作業をしながら思った。
気の強さで言えば、もしかしたら“キング”よりもはるかに…。
そして、あの美しさと色気───
“プリンス”が言っていたように、透も電気が走ったような感覚を覚えた。
撤収作業を手伝ってくれている“キング”をそっと見る。
(あの人は、クイーンとクラスが一緒で、寮も同室で…)
「で…ッ」
「手が止まってる」
背中をどつかれて、透は後ろを振り向いた。
「松岡先輩…」
「なんだ?中野の色香に当てられたか?」
松岡がニヤッと笑った。
「………………」
「あれ?マジ!?」
黙ってうつむいてしまった透に、松岡が慌てたように言う。
「あー、まあ、あれは確かにな…。体育祭の時よりパワーアップしてる感じだし」
「あの人、怖い人ですね」
フォローをしようとしてくれたらしい松岡の言葉を遮って、透はボソリとつぶやいた。
「そうだな。おそらく、これからもっと恐ろしく、そして魅力的に…。きっと目が離せなくなる」
松岡は真顔でそう言った。
(あの二人は真逆だ)
透はそう思った。
“キング”が太陽なら、“クイーン”はさえざえとした夜空に浮かぶ白い月。赤い炎と青い炎。力強く広がるエネルギーと静かな深いエネルギー。
その底の知れない深い深い魅力にとらわれた者は、きっと、そこから抜け出せなくなる。
おそらく、あの“キング”も、“プリンス”も、そして透自身も───
翌日、佑は麓の街のスタジオでの練習にいつも通りにあらわれた。
ただ、アップ中は龍司とは目を合わせようとしなかった。
一曲目に踊る予定のアップテンポの曲の振り付けは、まだ完成していなかったので、それを二人で考えたり試しに踊る時、それはいつも通りだった。
「たっくん…」
練習も終わりの頃、龍司は恐る恐る佑に話しかけた。
「怒ってる?」
龍司の問いに佑は無表情に、
「別に」
と答える。
龍司は佑の腕をつかんで、その瞳と向かい合った。
「でも、何かあるんだよね?」
佑は龍司の問いに一瞬目を伏せ、すぐに目を合わせた。
「なんで、そこまでするの?」
龍司は佑の視線を受け、
「わからない」
そう正直に答えた。
「たかが学祭のイベント、そう言われれば、その通りなんだけど…」
龍司は佑の腕をつかんだまま、顔をうつむけた。
「だけど、そのひとつひとつが、僕の望むほうに向かってる、そんな気がして仕方ないんだ」
「望むほうって?」
龍司はうつむいたまま、答えるのを躊躇した。
「僕の…幸せ…」
ボソッと言った言葉は、沈黙で迎えられた。
「龍司は……」
数瞬の沈黙のあと、
「家族と確執もないんだよね?落合さんともうまくいってるみたいだし…」
と問いかけられた。
「あ、うん。そう…なんだけど」
「自分が夢中になれる何かってこと?」
佑のさらなる問いかけに、龍司は唇を引き結んだ。
「それがダンスなの?」
龍司は顔を上げて佑を見た。
「うん」
そしてはっきりとうなずいた。
「僕、踊るの好きだ、ちっちゃい頃から。前は大会でいい成績取ることとか、プロになることを考えてたこともあった」
龍司は言葉をきった。
「でも、今はそんなことどうでもいい。とにかく、ひたすら踊ることが楽しい。たっくんと踊ることがものすごく気持ちいい。二年間、なんで踊らずに生きていられたのか、不思議なくらい。ただ…」
龍司は少しうつむいた。
「ただ、それを人に見て欲しいと思ってる。見せるからには今の僕自身の精いっぱいベストなものを見せたい。人からどう思われるかじゃない。自分が納得出来るものを見せたい」
顔を上げると、佑は龍司をまっすぐに見ている。
「それに、たっくんのこともみんなに見て欲しいんだ。たっくんはホントにすごいよ。僕が勝手なことしたのは謝る。ごめん。でも、僕、たっくんなら…」
「いいよ」
「え…?」
佑は龍司の言葉を遮り、手を伸ばし、ほほに触れてきた。
「ただ、俺が覚悟を決めるのに、龍司の気持ちが聞きたかった」
「覚悟…?」
「うん。俺、自分で自分のことまだ信じられてない。周りの人たちが言ってくれるような人間じゃないって思ってる。迷いもある。でも、俺も龍司と踊ってる時、スゲー楽しいから、だから、やるよ」
佑がそう言い終えると同時に、
「んッ!ん〜〜〜」
龍司は佑にキスした。
抵抗虚しく長いキスをされた佑は、顔を真っ赤にしながら、
「おまえはキス魔かッ!?」
と叫んだ。そんな佑に龍司は、
「だってたっくん、すっごい綺麗でエロいんだもん。勃ちそうになるくらい」
「はあッ!?」
「それに時々、今みたいに可愛い顔する。あ、でも、ベロチューは落合さんとしかしないよ」
とあっけらかんと答えた。
「佑」
風呂から上がった佑にむかって真澄が、普段 佑がアップの時に使っているマットを敷いて、そのわきにすわって声をかけてきた。
「え!?何?」
「マッサージ。竹内に教わってきた」
「え?」
「いつも竹内にメンテナンスしてもらってるんだろ?」
「あ、うん…」
龍司は練習のあと、必ず佑の体をマッサージしてくれる。それが怪我を防ぎ、最高のパフォーマンスを引き出す、と言って。
「俺がメンテナンスすれば、その分の時間を練習に当てられるだろう?」
「真澄、いつの間に?」
「公開練習の何日かあとに、俺から竹内に何か出来ることはないかって聞いた」
真澄がマットをポンポンと叩くので、佑はそれに従い、マットに横たわった。
「心配するな。おまえの体…、おまえの筋肉とか関節のこと知ってる竹内に詳しく聞いてきたし、ちゃんと竹内に実践してお墨付きをもらったんだ」
真澄が佑の体に触れながらそう言った。
「そう…」
佑がつぶやく。
「イ…ッ!!」
佑は痛みに声を上げ、真澄をにらみ上げる。
「なんの反応もないんで、つい」
にらんだままの佑に、
「竹内の体触ってきたのに、嫉妬とかないわけ?」
真澄はそう聞いてきた。
「は?」
佑が聞き返すと、真澄は、
「いいよ。おまえってそういう奴だよな」
とため息をつきながらそう言った。
「体育祭の時のおまえも綺麗でカッコ良かったけど、この間の公開練習の時も凄かった」
「真澄…」
佑の体をほぐしながら、真澄は静かに言葉を継いだ。
「俺が、佑が思いっきり動ける体を創ってやる」
「あのさ、龍司」
いつもの龍司の自宅から徒歩五分ほどのスタジオ。練習の終わりに、佑は龍司に話しかけた。
「ん?」
水を飲んでいた龍司が佑を見る。
「春休みに、俺、力也んちに行ってて、力也の親父さんと力也と真澄の四人でカラオケ行ったんだけど…」
「うん」
龍司は首を傾げて先をうながした。
「力也って、もの凄く音域が広くて高いとこまで出るんだ。真澄もメッチャ歌うまくて…」
「うん」
「それで……」
佑は龍司の目を見つめた。
「今度のバラード、二人に歌ってもらうっての、どうかな、って…」
「へえ」
龍司の目が輝き、興味を持ったようだった。
「で、二人の声、龍司にも聴いてみてほしいんだけど…」
「うん」
「次の休み、四人でカラオケ行かない?」
龍司は佑の提案にニコッと笑った。
「いいよ。面白そう」
そして、休日───
佑はカラオケ店で、それぞれ何曲か歌ったあとに、真澄と力也に、龍司と踊る予定のバラード曲をリクエストした。
二人はあっさりと応じてくれた。
二人が歌い始めたところで、佑は向かいにすわる龍司を見た。龍司も佑を見て、うなずいた。
「音どうする?」
ダイニングテーブルのまわりには、佑、真澄、力也がすわっていた。
佑が真澄と力也に問う。
そこにこの家の住人である龍司が、後ろのキッチンからコーヒーカップをテーブルに置きながら、
「カラオケの音じゃ面白くないよね」
と意見を言った。力也は“サンキュ”とカップを受け取った。
「でも、原曲通りじゃないと踊りづらいだろ?」
真澄が龍司に尋ねる。
「そこは大丈夫。ね、たっくん」
龍司もテーブルにつきながら、佑を見た。
「うん、大丈夫。まだ時間あるし」
佑はうなずき、
「それにこれ、元々五人編成のボーイバンドの曲だから、二人用にアレンジして二人のパフォーマンス最大限に発揮出来るようにしようよ」
と言った。
「それなら吹奏楽部のヤツでそういうの得意なのいるよ。音作るなら放送部のヤツにいる」
力也がそう言った。
「じゃあ、その線は田上に当たってもらっていい?」
龍司がそう聞くと、力也は“オケ”と答えた。
「二人に、俺たちの練習見に来てもらったほうがいいね」
佑がそう言って龍司を見た。
「そうだね。この間の公開練習は文化祭での振りは避けてやってたから、まずはそこからだね」
龍司はそう答えた。
「来週は?」
佑が真澄と力也を見る。二人ともうなずく。
「よし。じゃあ、そういうことで」
龍司が四人の真ん中ににぎった拳を突き出した。他の三人も同じように拳を出し、軽く突き合わせる。
「四人でのパフォーマンス、始動うん、大丈夫。まだ時間あるし」
佑はうなずき、
「それにこれ、元々五人編成のボーイバンドの曲だから、二人用にアレンジして二人のパフォーマンス最大限に発揮出来るようにしようよ」
と言った。
「それなら吹奏楽部のヤツでそういうの得意なのいるよ。音作るなら放送部のヤツにいる」
力也がそう言った。
「じゃあ、その線は田上に当たってもらっていい?」
龍司がそう聞くと、力也は“オケ”と答えた。
「二人に、俺たちの練習見に来てもらったほうがいいね」
佑がそう言って龍司を見た。
「そうだね。この間の公開練習は文化祭での振りは避けてやってたから、まずはそこからだね」
龍司はそう答えた。
「来週は?」
佑が真澄と力也を見る。二人ともうなずく。
「よし。じゃあ、そういうことで」
龍司が四人の真ん中ににぎった拳を突き出した。他の三人も同じように拳を出し、軽く突き合わせる。
「四人でのパフォーマンス、始動」
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