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その人、堤 輝(つつみ あきら)さんと出会ったのはたまたま。
今日はバスじゃなく歩いて帰ろうと思った日、路上で試食を配っていたのが始まり。
当時まだ出来たばかりの店で、お客さん獲得のため行き交う人たちに小さく切ったケーキを勧めていて。
『良かったらどうぞ』と手渡された串を思わず掴んでしまい、しまったと思いながら口に運んだ 瞬間
『……ぇ、どうしたの!?』
口いっぱいに広がる味に、涙がポロリと落ちて止まらなくなった。
(いや、今思い出しても恥ずかしい……)
だっていきなり目の前で泣き出すとか、しかも男子学生がケーキを食べて。
普通にやばい人じゃん、印象最悪。
結局周りに人が集まりだし、慌てて手を引かれ店の中に連れられて。一向に泣き止まない僕に、あわあわしながら背中を撫でてくれたのが丁度半年前くらい。
それから、気づけば週2〜3回の頻度で通うようになってしまっている。
「お待たせしました。今日も保冷剤は1個入れといたから」
「ありがとうございます堤さんっ。じゃあまた来ます」
「気をつけてね」
アルバイトはしてないから自分のお金なんて無いし、だからバス代をケチってそれで買う。このためなら往復1時間の道を歩くことくらい苦じゃない。
それくらいにこの店が好き。ここのスイーツが好き。
だって、これは……
「っ、ふふふ」
ーー僕にとって、〝魔法〟のような食べ物だから。
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