2 / 9

2

その人、堤 輝(つつみ あきら)さんと出会ったのはたまたま。 今日はバスじゃなく歩いて帰ろうと思った日、路上で試食を配っていたのが始まり。 当時まだ出来たばかりの店で、お客さん獲得のため行き交う人たちに小さく切ったケーキを勧めていて。 『良かったらどうぞ』と手渡された串を思わず掴んでしまい、しまったと思いながら口に運んだ 瞬間 『……ぇ、どうしたの!?』 口いっぱいに広がる味に、涙がポロリと落ちて止まらなくなった。 (いや、今思い出しても恥ずかしい……) だっていきなり目の前で泣き出すとか、しかも男子学生がケーキを食べて。 普通にやばい人じゃん、印象最悪。 結局周りに人が集まりだし、慌てて手を引かれ店の中に連れられて。一向に泣き止まない僕に、あわあわしながら背中を撫でてくれたのが丁度半年前くらい。 それから、気づけば週2〜3回の頻度で通うようになってしまっている。 「お待たせしました。今日も保冷剤は1個入れといたから」 「ありがとうございます堤さんっ。じゃあまた来ます」 「気をつけてね」 アルバイトはしてないから自分のお金なんて無いし、だからバス代をケチってそれで買う。このためなら往復1時間の道を歩くことくらい苦じゃない。 それくらいにこの店が好き。ここのスイーツが好き。 だって、これは…… 「っ、ふふふ」 ーー僕にとって、〝魔法〟のような食べ物だから。

ともだちにシェアしよう!