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第8話 優也の話

優の怒鳴り声が聞こえる。 喧嘩が強く不良の彼だけど、あんな怒鳴り声は聞いたことがなかった。 咄嗟にドアノブを捻って静かに中に入る。リビングへ続くドアが少し開いていた。二人は気づいていない。 女の人は泣いている。 優の声はとても低く初めて聞く声だった。 「で?何しに来たんだよ」 「優也、私のところに戻ってきて欲しいの…」 「どの口で言ってんだ?」 「分かってる!私がどれだけ優也を傷つけたか」 「いーや、分かっちゃいねー」 「…ごめんなさい。でも、私にはあなたが必要なの」 「いらねーって捨てたくせに何言ってんだよ」 「本当にごめんなさい」 「俺は…テメーのせいで本気で人を好きになることさえできない…テメーが残した傷のせいで…気持ちわりーんだとさ。偶然見られた女に言われたよ。それ以来、これを見せるのが怖くなった…こんな傷のある奴は誰からも本気で好かれない。もし、テメーを許せる日が来るとしたら本気で誰かに好きになってもらえた時だ。だけど、それは俺も諦めた。だから、テメーも諦めろ。」 「ごめんなさい」 こんなやりとりを僕は全部聞くことは出来ず、優の「いらねーって捨てたくせに何言ってんだ」まで聞いて部屋を後にした。あの女の人に捨てられたけど、きっとまだ好きなんだ…本当は戻りたいけど、何かが邪魔して戻れないでいる…そんな感じがした。僕の入る隙なんて最初からなかったのに友達と言う関係に縋って女々しく会おうとした自分を何だかとても恥ずかしく感じた。優に忘れられない人がいることを知らずにいたかった。次、偶然会えたとしても多分上手く笑えない。優を想いまた涙が溢れた。 明日引っ越せば、もう二度と会わない。そう自分に言い聞かせて優への気持ちに終止符を打った。 その頃、優は女を追い出し、亮太のことを思い出していた。 あの女は優の母親で優が小さい頃、育児ノイローゼになった彼女はまだ小さい優に沸かしたお湯をかけて大火傷を負わせたのだ。その時、母親が言った「お前さえいなければ」と言う言葉が優の心を抉り傷ついていた。他にも、優の背中全体には大きな火傷があり中学生の時に偶然女子に見られ「気持ち悪い」と言われたことがトラウマになり誰かの前で裸になることはなかった。母親は捕まった。母親の兄が優しい人で金銭的に面倒をみてくれているが家を空けることが多い為、中学卒業までは施設で育った。高校から一人暮らしをしている。優は叔父さんのことは信頼している。 「はぁ…疲れた…亮太に会いてーな…」 一人呟く。もう、ずっと亮太に会ってない。声も聞いてない。こんなに執着するなんて…だけど、亮太は傷があるのが嫌だと言った。俺の背中には火傷の傷がある。これを見たら亮太はどんな顔をするのか…何て言うのか…見せるのが怖い…どんどん近い存在になる亮太を突き放したのは俺だった。 二年に入って直ぐ。クラスの斜め前の席に亮太は座っていた。寝顔が可愛くてドキッとした。それからは何となく見ているだけだったが、どうもいじめられてる様で、たまたま、屋上で助けた。それからは一緒にいることが多くなった。こいつといると心が?穏やかだった。セックスの経験はあるが、誰も好きになったことがない。好きって言う気持ちが分からなかった。が、亮太には多分一目惚れなんだと思う。普段は髪の毛がモサっとして目元を隠してるけど本当は可愛い目をしてることを知っている。笑った顔も可愛い。喋ってる顔も勉強してる顔も全部可愛い。背は変わらないけど、ちょっと細身で色白。グッとくる/// 「はぁ、俺相当やばいじゃん…亮太も大学受かったみたいだし、あっちに行く前に会いてーな」 次の日の夕方。智樹からのメールだ。 「おーい、何してる?今からカラオケにでも行かねー?」 「そんな気分じゃないからやめとくわ」 「亮太が東京行ったからって落ち込んでんじゃねーだろーな!」 「⁈亮太、もう行ったのか?!」 「あぁ、今日な。午前中に発つって言ってたから、もう行ってると思う。聞いてなかったのかよ。お前何してんの?大事なこと後回しにすんなよ」 「…… 。」 「まぁ、とりあえずメールでもしてみたら?」 「あぁ。」 なんて言ってメールするのか。今更… 出来なかった…

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