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第23話

颯が帰った夜なかなか寝付けず、リビングのソファーに座って考えた。颯がゲイってことは、両親に孫の顔は見せてあげられないってことだ。独身や不妊が理由ではなく、恋愛対象が男だから…僕は、もしかしたら女性も恋愛対象になるのかもしれないが優以外を愛することはない。これは変わらない。この理由を両親に告げる勇気はまだないが、いつかは言わなければならない。あんなに仲のいい家族、何よりも子供が大好きな両親。混乱からか涙が出る。そこに何も言わずにホットミルクを出して隣に座る優。優の存在に気づかない程考え込んでいた。優が優しく抱きしめてくれる。両親は傷つき悲しむかもしれない…だけど、、僕はもう…優を手放すことは出来ない。 「うぅっ…ひくっ」 「……何考えてんの?」 「まごっ、、みせてあげれない、、ひくっっ」 「孫ねぇ、、見せてあげたい?」 「うっん…」 「そっか…とりあえず今日は寝よう」 優に抱きしめられて眠った。だけど、僕はこんな幸せなのに両親には悲しい思いをさせてしまうのかと思い詰めるようになっていく。 「亮太、もう少し食べた方がいい」 「うん…ちょっと食欲がなくて…」 あれから、目に見えて亮太は痩せて、優にもぎこちなくなっていった。優は内心焦っていたが、何をどうしたらいいのか分からないでいた…そんな時、大学時代に頑張っていたことで、新入社員と思えないほど仕事ができた優は大きなプロジェクトメンバーに抜擢されたのだ。だがそれはアメリカで三年という大がかりなものだった。日に日に痩せていく亮太を置いてなど行けるはずがない…相談すらする余裕はなさそうなのに…亮太と離れることなど考えてはいない…だけど、亮太の幸せを思うと男の俺が邪魔になっている。多分、亮太はゲイではない。元々は女が恋愛対象だ。俺と別れて優しく包んでくれるような女と付き合えば、両親に孫も見せてあげられるし、幸せにもなれる。俺さえいなければ全て上手くいく…最初は断るつもりでいたが、亮太が幸せになることを信じてプロジェクトメンバーに参加することを決めた。 半月後には発つ。 半月なんてあっという間だ。あと一週間で発つと言う時に亮太の出張が決まった。明々後日から優が発つその日までの期間だ、、と言うことは今日、明日しか会えないのだ。優は 亮太のために別れることを決意していたが、やはり亮太が好きで好きで…この別れは優にとっても辛かった。 「なぁ、亮太…今日…抱いていい?」 「え、、今はごめんそんな気になれなくて…」 「そうか、わかった。じゃあ、ぎゅーだけは?」 「…いいよ」 そう言われて力強く抱きしめたかったけど、痩せ細った亮太を優しく、だけどしっかり抱きしめた。亮太の匂いを覚えておきたくて大きく息を吸った。最近は同じベットでも離れて寝ていたけど抱きしめたまま寝ることに亮太は抵抗しなかったからそのまま眠った。そんな風に、二日間を出来るだけ亮太の傍で過ごした。亮太が出張に行った日、荷物を整理して、柄にもなく手紙を書いた。 ー 亮太へ ー 出張お疲れ様。 この手紙を読んでるころには、俺はいない。 急にいなくなってごめんな。亮太の弟が来た日から亮太が悩んでいるのは知ってた。だけど、今まで亮太の傍に居たくて離れてやることができずにいた。俺を愛してると言ってくれているけど、多分、亮太は女も好きになれると思う。優しくていい子と出会えれば、両親にも孫の顔を見せてあげられるかもしれない。こればっかりは絶対とは言えないけど、俺といるよりは可能性はあるだろ?どんなに俺が亮太を好きでも子供は無理だから…たとえ子供ができなくても可愛くて優しい奥さんがいれば両親と仲良しでいられるだろうし、少なくとも諦めがつく。だけど相手が男だったら傷つける上に子供も望めない…いや、最初から受け入れてもらえないかもしれない…仲の良い亮太の家族を壊して、、亮太は明らかに病んでいくのに…俺に出来ることがあるか?多分ない…悔しいけど何もできない…唯一出来ることは亮太の前から消えることだと思う…俺が居なくなって亮太が前に進めた時、今よりもっと幸せだと思えると思うんだ。こんな俺の全てを受け入れて愛してくれたこと、少しの間だったけど一緒にいられたこと…俺はその思い出があれば生きていける。きっと亮太以外を好きになることなんてこの先絶対あり得ないと思うけど、亮太が幸せなら俺も幸せだ。 だから、必ず幸せになってくれ。頼む。                    赤城優 手紙の他に、お金が入った封筒とこの家の鍵がポストに入ってた。 何が何だか分からなかった。確かに、両親のことや颯のことで悩み食欲もなくなり今までとは変わったと思う。だけど、優がいなくなることは考えていなかった…別れるなんて…一瞬も考えなかったのに…僕はフラれたんだ…お金は結構な大金で引っ越し代か数ヶ月の家賃にあてられるようにと置いていってくれたのだろう。鍵も置いていったってことは、もう戻らないんだ… でも、優…酷いなぁ…今更女の子と付き合えだなんて…僕には優だけなのに…涙が溢れた。 別れた二人は、それぞれ仕事に没頭した。亮太は相変わらず痩せ細っているが病的な感じではなくそれが当たり前になってしまった。ただ、このショックから声が出せなくなってしまって、やたらと周りに心配させてしまう。幸いなことに職場は理解があり、話せなくなった亮太を受け入れこれまでと変わらず仕事ができている。 優は三年のプロジェクトが終わり日本へ帰国した。 もう、新入社員ではなくなって頼れる存在だ。 亮太は休みになれば実家に顔を出し、のんびり過ごした。地元に戻る時は智樹くんに連絡を入れて会っている。心のどこかで優のことを何か知ってるんじゃないかって期待してた…もう三年か…もう諦めなきゃな…

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