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第3話 もう一人
電車の駅の方はびっくりするほど田舎だったけど、車が進んで行ったら、なんかちょっと予想以上にひらけた街だった。
普通に国道沿いの街。
車も走ってるし、店もある。
ほ~って、周囲を見ていたらしょう兄ちゃんが笑った。
「ホントにわかりやすいなお前」
「なにが」
「この辺、車社会だからな。駅の方が寂れてんだよ」
「ふうん……っていうか、オレ、何も言ってないからね」
「言わなくても顔が訴えてる」
「オレのこと、顔でわかるって言うの、兄ちゃんたちくらいだから」
「ノタは変わらねえなあ」
「うるさいよ」
あまり自覚はないけど、周囲の人たちからそう言われることが多いから、オレは割とポーカーフェイスなんだと思う。
なのに。
オレにノタとあだ名をつけたしょう兄ちゃんの友達と、しょう兄ちゃん、二人だけはオレの表情を見てわかりやすいと笑う。
「しょう兄ちゃん」
「んあ?」
「せい兄ちゃん、元気?」
ホントは真っ先に聞きたかったこと。
恐る恐る口にしたら、しょう兄ちゃんがふっと息つくように笑った。
せい兄ちゃん、というのが、オレをノタと呼ぶもう一人。
笹平誠也(ささひら せいや)という。
従兄でも親戚でも何でもない赤の他人で、ただのしょう兄ちゃんの同級生。
田舎だから子どもも少ないし、保育園から高校までずっと一緒だったんだって。
都会に居たら絶対、せい兄ちゃんとしょう兄ちゃんは違うグループにいて、同じクラスでも接点なんかなさそうだと思う。
背が高くて、眼鏡かけてて、真面目そうな感じ。
でもしょう兄ちゃんとは気が合うらしくて、なんとなく仲がいい。
しょう兄ちゃんの周りは、そういう『なんとなく仲がいい人』だらけに見えていたけど。
長期休暇でこっちに来て暇を持て余していたオレを、しょう兄ちゃんが連れ出して、せい兄ちゃんの家に連れてってくれた。
せい兄ちゃんはものすごく本が好きで、家の離れがちょっとした図書館ですかって感じになってた。
そこで、宿題したり本読んだりゲームしたりしてた。
しょう兄ちゃんはオレをせい兄ちゃんに預けて、どっか行くこともあったけど、せい兄ちゃんはなんてことないようにオレに付き合ってくれてた。
しょう兄ちゃんが高卒で就職してからは、「まだ学生で時間あるから」って、せい兄ちゃんが迎えに来てくれることもあった。
数少ない、田舎での楽しい思い出。
「会いたいか?」
大きな平べったい建物が見えてきて、しょう兄ちゃんがウィンカーを出す。
多分ここが、ばあちゃんの居る施設。
「まあ、気にはなるよね。せっかくこっち来たんだし……」
そう言って誤魔化したけど、会いたいっていうか、気になるっていうか。
今、どうしてるかなあとか、そういうことは普通に思うじゃないか。
「ああ、そう……じゃあ、連絡してみるけど、会うとしても休みの終わりごろな」
「そうなの?」
せい兄ちゃんも盆で忙しいのかな。
首をかしげていたら、しょう兄ちゃんにデコピンされた。
痛い。
「明日から俺だけじゃなくて、お前も忙しいんだよ」
苦虫かんだような顔で、しょう兄ちゃんが言う。
しょう兄ちゃんが忙しいのはわかるけど、なんでオレ?
「なんで?」
駐車場に車止めて、サイドブレーキをひいた兄ちゃんが、わざとらしく大きな息をついた。
「ボケてんなお前。何しにこっち来たんだよ? 明日には千佳おばさんとこも茂おじさんとこも来るし、盆の法事もあるし、墓の引っ越しもあるんだぞ? 俺だけが忙しいんじゃなくて、お前もなの。それが終わるまで、俺もお前も身動きとれねえの」
「あ」
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