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新しい出会い 5

目の前にいるコイツの目に自分はどのように映っているのだろうか? 昔から、他人からは何を考えているかわからないと言われてきた。母親譲りの白い肌と小作りで中性的な顔立ち、右目の下にあるホクロのせいで幼い頃は女の子に間違えられることも少なくなかった。 今では流石に女性に間違われることは無いものの、着痩せするこの華奢な身体付きと伸び悩んだ身長のせいで格下に見られることが多々ある。 「へぇ、近くで見ると結構綺麗な面してるじゃん」 長い指先が伸ばしっぱなしになっていた前髪に触れ、そのまま耳へと掛けてくる。怜旺は自分の容姿が嫌いだった。スタイリングのきかない柔らかな髪質もカラスの濡れ羽のような艶のある黒髪も、切れ長の目も、高くはないが筋の通った鼻も、薄く小さな口も、何もかもが気に入らない。 「触るなっ!」 パシッと乾いた音を立ててその手を払い除けて睨み付けると、圭斗は面白がるように目を細めて見せた。 「……へぇ、いいね。気が強いのは嫌いじゃねぇよ?」 一気に距離を詰め、顎を持ち上げられて上向かされたと思ったらいきなり口の中に舌を捻じ込んでくる。 あまりに突然の事で一瞬反応が遅れた僅かな隙にぬるりと侵入してきた生暖かい感触に驚いて思わず突き飛ばそうとしたが、簡単に手首を掴まれてしまい身動きが取れなくなった。 それならばと思いっきり舌を噛んで怯んだ隙に距離を取る。 「ってぇな……」 「残念だけど、僕はそんなに安くないから」 ペッと唾を吐き捨てながら言うと、口の端についた血を親指で拭った圭斗がくつくつと笑い出した。 そんな様子を周りの生徒は呆然と見ているだけで、誰も止めに入ろうとはしない。 「ハハッ、最高じゃん。気に入ったよアンタ。絶対俺のモノにしてやるから」 「あーハイハイ。……たかがキス一つで調子乗ってんじゃねえよ。どうでもいいから席に着け」 適当にあしらいながら席に着くよう促すと、圭斗はククッと喉の奥を鳴らしてから自分の席に戻っていく。その後ろ姿を見送りながら怜旺は小さく溜息をつくと何事もなかったかのように授業に戻った。 ――これが獅子谷怜旺と椎堂圭斗の最初の出会いだった。

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