26 / 342

知られたくない 2

「えー、次のページを開いて各自問題に取り組んでくれ。わからない所があれば手を上げるように。…………ん?」 授業も終盤に差し掛かり、圭斗の席を通り過ぎようとしたその時。いきなりノートの切れ端を手渡された。 『4時限目 体育倉庫』 それだけ書かれた紙きれを確認し、思わず眉を顰めた。 これだけ見たって、他の誰にも意味はわかりはしないだろう。だけど……。 悪夢だとしか思えなかった。だがそれが、昨日の事が夢では無いと物語っているようで、怜旺を絶望の底へ突き落とす。 一体どういうつもりだと顔を上げれば、にやりと悪魔のような笑みを浮かべた圭斗と目が合って、怜旺は今度こそはっきりと小さく舌打ちをした。 「じゃあ、今日の授業はここまで。号令!」 「きりーつ、れい!」 終了のチャイムと共にガタガタッと椅子を引く音が教室に響き渡る。 一気に騒がしくなる教室内の喧騒を利用し、大きな欠伸をする圭斗に近づくと、怜旺は声を抑えて話しかけた。 「おい、椎堂。さっきのアレはなんだ」 「なにって? そんまんまの意味だけど?」 いけしゃぁしゃぁと言い放つ圭斗に苛立ちが沸々と湧いてくるが、今はそれどころではない。 「ふざけるな。一体なんのつもりだ」 「っせーな。つか何? 4時限まで待てねぇの? エロいねぇセンセ」 「っ、そ、そんなわけ無いだろうがっ!!」 耳元で色気を含んだ声で囁かれ、慌てて耳を押さえて飛び退る。思わず声を荒げてしまい、ハッとして口を噤んだ怜旺を圭斗は愉快そうな顔をしながら見つめている。 「……なんだ、ちゃんと意味わかってんじゃん」 「……っ」 カッと頭に血が上り、咄嵯に反論しようと口を開くが、周囲には他の生徒も居るためにそこはグッと堪えた。これ以上、余計な事を言ってボロを出すわけにはいかない。 ここは冷静に対応すべきだと自分に言い聞かせて気持ちを落ち着かせるべく深く息を吸い込んだ。 「フハッ、ウケる。動揺しすぎじゃね? 4時限目楽しみにしてるぜ。センセ」 「……クソがッ!」 圭斗の言葉に怜旺はギリッと奥歯を噛みしめる。これ以上コイツと話していても不愉快になるだけだと判断し、早々にその場を離れた。

ともだちにシェアしよう!