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知られたくない 3

大きなため息を吐いて、怜旺はゆっくりと顔を上げた。時計を見ると、もうすぐ3限目が終わる時間帯だった。 授業中の為、職員室に残っている同僚は数えるほどしかいない。もう一度ため息を吐いて怜旺はパソコンの電源を落とした。 約一時間掛けて、圭斗の弱点になりそうなものを探したが、思うようには見付からなかった。 家はこの辺りの地元でもそこそこ有名な資産家の息子で、両親ともに海外出張が多く、殆ど家にいないらしい。実質圭斗自身は広い屋敷に一人で暮らしているような状態だ。 不良ぶっているからテストの成績も悪いのだろうと思っていたのに、どういう裏技を使ったのかわからないが赤点は一つもなく、単位も緻密に計算して休んでいるのだろう。留年ギリギリのラインで一年時は終了している。 成績不良や授業単位などを理由に、馬鹿げたことを止めさせようと思っていたのだが、資料を見る限り成績は良い方だし、出席日数自体は問題ない。これといった欠点が見当たらないのだ。 唯一問題があるとすれば、素行の悪さくらいだが、それだって自分の秘密に比べたらたいした脅しにもならないだろう。 そう思うと気が重くなり、怜旺はまた一つ深い溜息をついた。 そうこうしているうちに、終了のチャイムが鳴り授業を終えた教師たちが職員室へと戻って来る。 そのタイミングで席を立ち、入れ替わるように外へ出ようとした。 「あれ? 獅子谷先生何処行くんですか? 次の授業も確か開いてましたよね?」 タイミング悪く声を掛けられ、ぎくりと身体が強張る。 振り返ると、そこには鷲野が立っていて純真無垢そうな目で不思議そうにこちらを見ていた。 コイツは意外と視野が広く、周りをよく見ている。そして、人とのコミュニケーションが少々苦手な自分とは違って、気さくに悪気なく話しかけて来るから厄介なのだ。 「ちょっと、野暮用がありまして……」 「ふぅん? そうなんですか。トイレかな……? 行ってらっしゃい」 「……ははっ」 長いトイレだと思われるのは癪だったが、上手い言い訳など思いつくはずもなく引きつった笑みを浮かべながらその場を後にする。 彼にはきっと悩みなど無いのだろう。裏表があまりなく、生徒や同僚たちからの信頼も厚い。秘密の爆弾を抱えている自分とは大違いだ。 羨ましいと思う反面、少し妬ましくもある。だが、それを悟られるのは断固として避けたかった。 結局のところ、当面はアイツの言いなりにならないといけないと悟り、鉛のように重い足を引きずりながら約束の場所へと向かった。

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