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知られたくない! 4
一目を気にしながら指定された場所へ辿り着いたのは、約束の5分前だった。
部活動に力を入れている明峰高校の体育倉庫は2つあり、そのうち一つはイベントごと以外はほとんど使用することのない、物置部屋のような倉庫だ。怜旺は躊躇うことなくそちらの扉を開いた。
薄暗い室内に入ると、ひんやりとした空気が流れ込んでくる。電気を付けると埃っぽい匂いが鼻腔を刺激した。
「……誰もいないじゃないか」
目だけを動かして周囲を確認する。物陰に圭斗が隠れている気配はない。
馬鹿正直に来た自分を、何処かで見ながら笑っているのだろうか?
中から開けられないように施錠するつもりか?
ふとそんな考えが頭を過り、慌てて振り返ると目の前に黒い影が差した。
「――なんだ、随分早かったじゃん」
開け放たれたドアから差し込む光で、肩につきそうな金色の髪がキラキラと輝いている。眩しさに目を細めつつ、怜旺は現れた人物を睨み付けた。
「……約束、だからな」
嘲笑うような声が神経を逆撫でする。息苦しくて堪らず、呼吸が乱れた。
ドクンドクンと心臓の鼓動が激しくなり、冷や汗が背筋を伝っていく。今すぐにここから逃げ出したくなる衝動をグッと堪え、怜旺は拳を強く握りしめた。
我慢しなくてはいけない。何を言われても、何をされても目の前のコイツに従わなければならない。
「逃げなかった事は褒めてやるよ。 じゃ、始めっか」
圭斗は口角を引き上げ、意地の悪い笑みを浮かべた。
「取り敢えず脱げよ。そして、これに着替えな」
目の前に紙袋を突きつけられ、舌打ちしたいのをなんとか堪える。
まさかコイツにコスプレ趣味があるとは知らなかった。見なくたってわかる。どうせろくでもない服が入っているに違いない。
「……変態かよ」
「ハッ、そう言う事は中身見てから言えば?」
「なん、だと?」
何を言っているのかと思わず顔を上げて圭斗を見つめ返す。妙に落ち着き払った態度に違和感を覚え、眉間にシワを寄せた。
「いいから、早くしろって。あぁ、それとも脱がされたくて待ってんのか」
言いながら、圭斗がゆっくりと近づいて来る。シャツの襟先を摘ままれた瞬間、軽く弾くようにしてその手を拒み慌てて大きく後退った。
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