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トラブル5
確か……名前は、安藤、渡辺、加藤……だったか。最近の男子はみんな自分より少しデカイが、態度も随分とデカいようだ。
「ちゃんと拭いて帰って下さいよセンセー」
「なぜ僕が? 意味が判らないな」
「乾くまでどうすんだよ。こんなにびちょびちょじゃ困るし」
「別にこのままでも、僕は何も困らないからなぁ。と言うか、お前らが勝手に水ぶちまけたんだろ?」
正直言って面倒くさい。前の担任はこんなクズどもの言いなりになっていたのだろうか? そう思うと反吐が出そうになった。
「俺らが困るんだって! いいから拭けよチビ……ぐ、ハッ」
「……調子乗んなクソガキ」
言ってはいけない一言が耳に届いた刹那。カッとなって思わず腹に膝蹴りを一発お見舞いしてやれば、三バカトリオのうちの一人が苦し気に呻いて二つ折りになり、その場に崩れ落ちた。
「ぐ、かは……ってめ……っ」
「こいつ、教師のくせに蹴りやがった」
「蹴ってない。急に腹痛でも起こしたんだろ?」
「いや、どう考えたってその言い訳無理があるだろっ!」
「……ごちゃごちゃ五月蝿いな。おい、そこに転がってるお前。僕が蹴ったのか? 違うよな? なぁ?」
グッと胸ぐらをつかんで無理やり立たせ、顔を覗き込めば、なにか恐ろしいものでも見たような顔をして、ブンブンと首を横に振った。
「ヒィッ、す、すみませんっ!! 違いますっ、急に腹が痛くなって……」
「お、おい。加藤……」
「い、いいんだ。アイツ、やべぇって逆らわないほうがいい」
「何をボソボソと話してるんだ?……たったあれくらいでビビるんだったら、イキって絡んでくるんじゃねぇよ」
だいぶ手加減したのに、情けない。この程度で怖気づくなんて、根性なしにも程がある。
怜旺はつまらなさそうに手を離すと、足元に転がっていたバケツを拾い上げた。
「今度ふざけた真似をしてみろ……。こんなもんじゃ済まさねぇから」
吐き捨てるようにそう言って教室内を見渡せば、水を打ったように静まり返り、誰もが怯えた顔で黙り込んでいた。
「プッ、アハハ」
沈黙を破ったのは圭斗だった。ついさっきまで居なかったはずなのに、いつの間に戻ってきていたのか。教室の入口に手をかけて堪えきれないと言った様子で肩を震わせ笑っている。
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