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謎 2

「出ないのかよ」 「悪戯電話だ。お前が気にする必要はない」 「……もしかして、例のアレか?」 「……」 怜旺は否定も肯定もしなかった。咄嗟に図星を突かれ、返事が出来なかったと言うべきだろうか。 本業の間は連絡を入れるなとあれほど言っておいたのに、人の話を全く聞いていない親に苛立ちを覚えるし、それを悟られた事が更に腹立たしかった。 怜旺は無言のまま、スマホを手に取ると電源を落としてポケットに押し込む。 「……そういやさ、アンタはなんで裏であんな仕事してるんだ? 教師って高給取りなんじゃねぇの?」 怜旺の反応に何か察したのか、圭斗は平均台に腰を下ろすと不思議そうに問い掛けて来た。何故そんな事を聞く必要がある? 自分は圭斗にとってただの性欲処理の相手に過ぎない。たいして興味もないのに踏み込んでくるなと言いたかったが、怜旺は寸での所で言葉を飲み込んだ。 「またその話か。お前には関係ない」 少し棘のある言い方になってしまったが仕方がない。余計な詮索をされてボロが出るよりマシだ。 「……ふぅん」 圭斗は納得していない様子で何か言いたげに二、三度口を開きかけたが、結局は何も言わずに口を閉ざした。 正直言って気まずい。早く戻ってシャワーでさっぱりと汗を流したかったのに何故か圭斗がそれを許さなかった。 ムッとした表情で体育館倉庫を出ようとした怜旺の手を引き、抱き寄せられ背中にべったりと圭斗の身体が密着する。 「おい、離せっ! 暑いだろうがっ!」 「……なぁ、もう一回シようぜ」 圭斗が前髪を掻き上げながら耳元で甘ったるい声色で囁く。吐息混じりのその低い声にゾワっとした感覚が背筋を走り抜け、思わず鳥肌が立った。 「断る!! ……ちょ、待てッ……ぁっ!」 即座に拒否し身体を捩って、逃れようとするが、腰をしっかりと抱かれていて逃げられない。 「……さっき散々ヤっただろうがっ!」 「うるせぇな。いいだろ別に」 圭斗の声に若干の不機嫌さが滲んでいた。 デリヘルをやっている理由を話さなかった事がそんなにも気に入らなかったのだろうか。それとも何か別の問題があったのか。 何故急に圭斗のスイッチが入ったのか理解できなかった。怒っているのに身体を求めようとしてくる意味が分からない。 痛めつけるならまだわかるが、苛々しているくせに、圭斗がそっと優しく触れて来るから怜旺は益々混乱してしまった。

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