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謎 3

授業を終えて、職員室に向かいながら怜旺は人知れずひっそりとため息を吐いた。 圭斗の様子が何処かおかしかったせいで、授業中だと言うのに集中出来なかった。 脳裏に先ほどの圭斗の不貞腐れたような表情が焼き付いて離れない。 一体、なんだと言うのか。先ほどの圭斗はいつもと様子が違っていた。そう言えば以前は終わればすぐに勝手に出て行ってくれたのに、最近は行為後もずっと傍に居る事が多く、暑苦しいと言いながらもベタベタとくっついて来る事が増えた気がする。 事後にあんな風にベタベタしてくる男は圭斗が初めてだった。  仕事柄、相手が満足すればさっさとシャワーを浴びて帰るのが普通なので、事後の気だるさに身を任せたまま、相手の体温を感じているという行為の意味が分からなくて戸惑ってしまう。キスこそ怜旺が拒否しているのでしないものの、あんな風に抱きしめられたり、優しく羽のようなタッチで触れられたりすると妙に落ち着かない気持ちになってしまう。 熱に浮かされそうになって目が合ったあの時の圭斗表情は、普段の軽薄そうな笑みとは全然違う。ギラギラとしていて、それで居てどこか切なげで……。まるで手放したくないとでも言うような、そんな目をしていた。 あれではまるで――。 「……馬鹿馬鹿しい」 無限ループに陥りそうになった思考を断ち切るように、怜旺は首を振って脳裏を過った考えを振り払った。 きっと疲れているからそんな事を思ってしまっただけだ。きっとそうだ。そうに違いない。と、自分に言い聞かせながら職員室に向かう階段を降りていると不意に背後で人の気配がした。反射的に振り返るとほぼ同時。 一人の少年がバランスを崩して上から降って来るのが視界に入る。 「わ……ぅぁあっ!」 「ぅおっ、っとあっぶね……っ」 何が起きたのか訳が分からないままに、咄嗟に腕を伸ばして少年を受け止め、手すりを掴んで自分の方へと引き寄せた。

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