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謎 4

間一髪のところで転落は免れたが、一瞬ヒヤッとする。 危なかった。あと数秒反応が遅れていたら彼か自分のどちらか、もしくは両方が確実に大怪我を負っていただろう。 「……怪我はないか? って、お前は……」 「っ……ごめんなさい……っ」 視線を合わせるために身を屈めて顔を覗き込めば、担当するF組の中でも特に大人しい分類に入る都築が恐怖に青ざめた表情を浮かべて震えていた。 身長は低く華奢な体格で、顔立ちもやや幼い。小動物のように怯え切ったその姿にはなんだか庇護欲をそそられる雰囲気を纏っている。 「……大丈夫か? どこも怪我してないか?」 「ひぃっ! ごめんなさいっ!!」 ただ聞いただけなのに、ひいってなんだ。失礼な。都築は自分の事を血も涙もない鬼か何かだと思っているのだろうか? クラスのヤンチャするガキどもを黙らせる為に少しばかり威嚇はしてやったが、敵意のないものを攻撃するような趣味は自分にはない。 「たく、もう大丈夫だから。落ち着けって」 ふわりと抱きしめて背中をそっと撫でてやると、彼はようやく安堵したのか縋り付くようにぎゅうっとシャツを握りしめ、震えながら胸に額を押し付けて来た。 「……こ……かった。……怖かった……っ!」 そりゃそうだろう。階段から落ちそうになったのだ。一歩間違えれば大惨事になっていたかもしれない状況だ。怖い思いをした事は想像に難くない。 それにしても。本当に足を滑らせただけなのだろうか?  さっきはあまりにも突然の事で状況を把握する余裕も無かったが、冷静になった今改めて考えると不可解だ。 体勢が崩れたのは足を踏み外したからだとしても、階段を踏み外したのなら足から先に落ちて来るはずだ。 だが、彼はように感じた。それはつまり、彼が意図的に自分を突き落とそうとしていたのに失敗したか、もしくは彼が誰かに突き落とされたかのどちらかという可能性が高いのではないだろうか?

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