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謎 5
「少しは落ち着いたか?」
人気のない保健室へと移動し、都築の涙が止まった頃合いを見計らって尋ねる。小さな子供のように泣いて縋ったのがよほど恥ずかしかったのか、俯いたまま小さくコクンと頷いたのを確認し怜旺はようやく肩の力を抜いた。
幸いにも保健医は今出払っているらしく、室内には怜旺と都築の二人しかいない。
疑問に思っている事を聞きだすには今しかないだろう。ベッドに腰掛け顔を覗き込みながら単刀直入に切り出した。
「僕を突き落とすつもりだったのか?」
「ち、違うんです! 僕はそんなこと……っ!」
怜旺の言葉に弾かれたかのように勢いよく顔を上げた都築の顔には明らかな動揺の色が浮かんでいて、目が合うとハッとしたように視線を逸らす。
「ぼ、僕は……っ、ご、ごめんなさいっ!」
「謝るって事は、認めるんだな?」
怜旺が追い詰める様にじっと見つめれば、やがて観念したのか、消え入りそうな声ではい……。と呟いた。
まさかこんな大人しそうな生徒の恨みを買っているなんて知らなかった。
恐らく何か事情があっての事だろうがいざ本人に認めてしまうと少なからずショックで、怜旺は大きく息を吐き出すと困惑して眉根を寄せた。
「……っ本当はこんな事したく無かったんですけど……僕、……椎堂君に命令されて……」
「椎堂?」
予想外の人物の名が都築の口から飛び出して、思わず聞き返してしまった。
「椎堂って、椎堂圭斗か? なんでアイツが……? いつ?」
本当に圭斗がそんな命令をするだろうか? アイツは自分の弱みを握っているから、そんな陰湿な嫌がらせをしなくても何時でも精神的な攻撃をする事はたやすい筈で、こんな事を圭斗がするとは到底考えられない。
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