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謎 8
「先生? どうかしたんですか?」
声を掛けられてハッと我に返る。授業中に自分は何を考えているのか。気付けば文字は乱れまくっていてなにを書いているのかさっぱり読めない程酷いし、同じ場所にぐるぐるとチョークの痕が色濃く残ってしまっているじゃないか。
「悪い。なんでもないんだ……。続き、行くぞ」
バツが悪そうにコホンと咳ばらいをして誤魔化すと、乱れた思考を戻そうと深呼吸を一つして生徒達に向き直る。
視界には圭斗不在の空席と、その横で爆睡している亮雅。そして、その前の席に座る都築の姿が映りこみ胸のざわめきが大きくなって、怜旺はギュッと拳を握り締めた。
都築の話だけを鵜呑みにするわけにはいかない。だが、事実関係はしっかりと把握しておく必要がある。
結局、その時間は上手く授業に集中することが出来ず、グダグダなまま終わってしまった。
あぁ、自己嫌悪だ。私情を思いっきり授業に挟んでしまった。 今までこんなにも試みだされることは無かったのに何故、アイツが関わっているかどうかが気になるのだろう?
しかも、圭斗は何処でなにをしているのか、帰りのHRの時まで姿を現さなくて、その事実が余計に怜旺の不安を煽った。
アイツがいま何を考えているのか。わからない。
「くそっ、なんで居ねぇんだアイツは……っ」
放課後、デスクで頭を抱えていると、不意に怜旺のスマホが震えた。ちらりと時間を確認すればもうすぐ18時になろうとしている。
もしかして、圭斗からか!? と思って慌ててディスプレイを確認し、表示された文字を見てがっくりと項垂れる。
(なんだ、クソ親父かよ……)
よくよく考えればいつもこの時間に掛かって来るのは決まって父親からだ。昼間は無視したので、苛立って掛けてきたのだろう。
用事なんて、聞かなくてもわかる。どうせ、金の無心か裏の仕事の斡旋に違いない。
人にあまり聞かれたく無い内容なのは容易に想像が付いて、渋々立ち上がるといつも利用している3階奥のトイレへと向かう。
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