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謎 9

この学校で勤務してわかった事だが3階には専門的分野の特別教室や準備室が並んでいる為、放課後になるとほとんど人は通らない。 ロボット研究部や美術部、写真部などの文化系の部員達が細々と活動を行っている程度で、人の出入りがあるとすれば図書室くらいだろうか。 多少大きな声を出してもバレない上に長時間居座っても誰に見付かることもない。 誰にも見つかりたくない時に避難する場所としては最高の穴場だと思う。 ところが、今日に限っては中に人がいるようで怜旺はピタリとその足を止めた。 「――おい、本当にやんのかよ」 「大丈夫だって……だから……」 はっきりとはわからないが何やらぼそぼそと話し声が聞こえて来る。 「チッ」 今日は厄日か何かだろうか? タイミングが悪いにも程があるだろう。鳴りやまないバイブレーションにすら苛立ちを覚え、どこか違う場所を探そうかと踵を返したその瞬間。 「――やめっ!」 くぐもったような悲鳴にも似た声がトイレの中から聞こえて来た。 一体何事だろうか。ただの痴話げんかかもしれないし、気付かなかった振りをして立ち去ろうか。 「やっ、ごめんなさいっ! 次はちゃんとやるから……っ」 一瞬そんな考えも頭を過ったが続く悲痛な声に胸騒ぎがして、慌てて駆けていってそっとドアの隙間から覗き込むと、見覚えのある赤い髪が気弱そうな少年の胸倉を掴んでいる光景が目に飛び込んで来る。 ……亮雅だ! しかも怯えている少年は都築ではないか! やはり、コイツが都築を脅していたのか。 そこに圭斗が居ないことに何処かホッとして小さく息を吐くと、スマホをポケットに突っ込んで、ゆらりと立ち上がり扉に手を掛けた。 「……随分と楽しそうな事してんなぁ」 勢いよく扉を開くと同時に思わず低い声が漏れた。二人の視線が一気に集まる。 「し、獅子谷……っ!」 「先、生……っ」 振り返った亮雅の表情がほんの一瞬強張る。 まるで、何故いるのか?と言わんばかりの亮雅の表情に怜旺は冷酷な笑みを浮かべて近づくと、都築を掴んでいる腕を乱暴に払いのけ、顎を掴んで引き寄せる。 「面白そうじゃん。俺も混ぜろよ」 「は? アンタ何言……っう、ぐ……」 言うが早いか一気に間合いを詰め、腹に一発かましてやると、亮雅はうずくまって咳き込んだ。

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