57 / 342

謎 12

「ぐ、ぁ……てめっ!」 「いい眺めだな。お前には便所の床がお似合いだよ。クソガキ」 倒れこんだ亮雅の脇腹に容赦なく蹴りを入れると、亮雅は苦悶の声を上げた。 「て、てめぇ……っ、教師がこんな事していいと思ってんのか!?」 「先に卑怯な手を使って喧嘩を売って来たのはてめぇな? 俺は売られた喧嘩を買っただけだ。 それに、お前がいくら俺に殴られたって世間に公表した所で証拠が無けりゃ誰にも相手にされない事くらいバカなお前でもわかんだろ」 「ふ、ざけんな……っ何言って……っ!」 「残念だけど、表では優しい獅子谷先生で通ってるんでね。なぁ、都築……。お前は何も見てない。そうだろう?」 悔しそうに歯噛みする亮雅を尻目にちらりと後ろを振り返ると、都築は目を大きく見開いて固まっていた。 「……っ、はい……」 「なっ、千尋てめっ! 裏切りやがって……っ」 「何のことか、わからないよ」 ほんの一瞬、都築の目が冷酷な色を帯びたような気がした。 恐らく、今まで自分を虐げて来ていた相手が無様に床に這いつくばる姿を見てざまあみろと思ったに違いない。 「今度こんなふざけた事してみろ。こんなもんじゃ済まさねぇぞ」 吐き捨てるようにそう言って、怜旺は都築の肩を抱きトイレから出た。 蒸し暑かったトイレとは違い、廊下は空調が利いていて涼しい。 「悪い。変なとこ見せちまったな。多分もう大丈夫だから。またアイツに何かされたときは――」 「獅子谷先生……かっけぇ……」 「ん?」 突然ぽつりと零れた言葉の意味がわからず思わず聞き返すと、都築はハッとしたように口を手で覆って俯いてしまった。 先ほどまでとは違う意味で頬が赤くなっているように見えるが、まぁ気のせいだろう。 「じゃぁ、俺はもう行くから」 ポケットに突っ込んだままにしていたスマホが再び震えだしたことに気付いて、怜旺は足早にその場を後にした。

ともだちにシェアしよう!