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動揺

「……でね、先生。この間亮雅が……」 「あのなぁ、都築。お前、なんで休み時間ごとに僕のとこに来るんだ」 「えー? だって、先生の側が一番安全だし」 「……」 あの日以来、妙なのに懐かれてしまったらしい。都築は休み時間になると決まって飛んできては、他愛も無い話を一方的に話し続けている。 慕われるのは悪い気はしない。だが、都築と仲良くなるつもりはこれっぽっちもないし、大きな秘密を抱える怜旺にとってはスマホの操作もろくに出来ないので少々困っている。 だが同時に都築は悪気なくぺらぺらと色々な事を話してくれるので、クラスの内情を知ることが出来て助かっているのもまた事実だった。 担任とは言ってもまだ赴任して一カ月も経っていない。朝晩のホームルームと授業の間だけでは、細かい人間関係などを把握するのは難しい。 何度か子供じみた嫌がらせを受けたこともあったが、そのたびに成敗していたらようやく諦めがついたのか最近はぱったりと無くなりだいぶ授業がしやすくなった。 だが、まだ完全に生徒達を理解したとは言い難い。相変わらず圭斗は飄々としていてつかみどころが無いし、亮雅は今のところ大人しくしてはいるものの、こちらに向けて来る視線は敵意剥き出しで虎視眈々と狙っているようなそんな印象を受ける。 都築との会話の中でわかっている事は、クラスのボスは圭斗である事。苛めや悪戯の主犯格はほぼ亮雅が仕切っている事。 まだ一度も顔を見たことが無い上城は、圭斗と亮雅が撮った動画が原因で不登校になったらしいと言う噂がある事。 時々クラスで盗難が発生し困っている事など。 都築の言う事だけを鵜呑みにするわけにはいかないが、表面上に顕在する情報だけでもかなり有用なデータと言えるだろう。 圭斗は自分だけでなく、クラスメイトすら動画を使って脅していたのかと思うと、改めて怒りが湧き上がってくる。

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