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動揺 2
今はなんとかうまく誤魔化せているものの、圭斗との関係がいつかコイツに見付かってしまうのではないかと思うと気が気じゃない。
そう言えば、最近圭斗は自分の授業を良くサボるようになった。
ああ見えて計算高いアイツの事だから補講しなくてもいいギリギリのラインを行くつもりだろうが、このままサボりが続けば夏休みは足りない単位の補講を受けさせなければいけなくなる。
他の教科は今のところ真面目に出席しているようなので、特に問題は無さそうだが、何故自分の授業の時だけ出席しないのか。
授業には出ないくせに、ちゃっかりとヤる時だけ呼び出して来るのは一体どういう了見なのか問いただしたい所だ。
「……獅子谷先生?」
「あぁ、すまない。ちょっと考え事してた」
まさか圭斗の事を考えていたと言うわけにもいかず、誤魔化すように頭をくしゃくしゃっと掻きまわすと、都築はくすぐったそうな表情ではにかむ。
「そうだ、都築。もうすぐ試験期間に入るから暫く職員室には入室禁止だから」
「えーっ」
「えー、じゃない。テストの問題作んなきゃいけないんだよ。文句言うな」
不満げな声を上げる都築の額を突いて、怜旺は苦笑いを浮かべる。
尻に入れたスマホがブルッと震えだした事に気付いて、それを悟られないようにそっと都築の背中を押して教室に戻るように促した。
メッセージの送り主なんて見なくてもわかる。次の授業は確か音楽だったから、恐らく相手は圭斗だろう。
「じゃぁ、先生。また後でね」
「あーハイハイ。またな」
パタパタと走り去って行く後姿を眺め、怜旺は小さく息を吐いた。素直な子供は嫌いじゃないが、あんな風にベタベタされるのはどうにも苦手だ。
それに、彼には何か引っかかるものがある。それが何なのかはわからないが、直感的な違和感を感じる。それは教師としてか、それとも獅子谷怜旺としての勘が告げるものなのだろうか。
どちらにせよ、全面的に信頼してはいけないようなそんな気がしていた。
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