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動揺 7
あれから数日経つと言うのに、圭斗との事が脳裏にちらついて頭から離れず、気が付くと思い出しては唇に手をやる癖がついてしまっている。
圭斗の唇の感触を思い出してしまうだけで、なんだか変な気持ちになってしまい、怜旺はそんな自分自身に苛立っていた。
キスなんて誰とやっても一緒だし、大したことじゃない。そう思っていたはずなのに何故こんなにも気になるのだろう。
こんな事ではいけない。やらなければいけない事は沢山あるのに、ついつい圭斗の事を考えてしまい、授業中も無意識に彼の姿を探しては、いない事実に落胆している事に気付いて溜息をつく始末だ。
あの日以降、圭斗からの呼び出しは無く、彼の本心がわからないまま悶々とした日々が続いている。
「獅子谷先生、大丈夫っすか? この間から、なんかボーっとしてますけど」
目の前にコーヒー缶を差し出され、ふと視線を上げれば同僚の鷲野が、心配そうな顔つきでこちらを見下ろしていた。
鷲野はへらへらとした見た目とは裏腹に本当に人の事を良く見ている。
話してみれば意外と明るくて人懐っこい性格で、気楽に付き合えそうな相手だった。
「熱でもあるんじゃないっすか? 顔もなんか赤いし」
隣の椅子を引いて腰掛けると上目遣いで心配そうな顔をしながら覗き込んで来る。やたら距離が近いような気がするのは、自分の気のせいだろうか?
「すみません。何でもないんです気にしないで下さい」
心配かけたくなくてそう言うと、鷲野はんー、と首を傾げてきょろきょろと辺りを見渡し、内緒話でもするように耳元に唇を寄せて来る。
「もしかして、欲求不満か何かっすか?」
「あ?」
不躾な質問に思わず素の自分が顔を出しそうになり、慌てて表情を繕った。
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