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黒歴史と家庭訪問 5

このタイプの相手にはキレても何の解決にもならない。 「あー、じゃぁ……もう面倒くせぇし、単刀直入に聞くわ。お前、椎堂圭斗に脅されてるだろ」 怜旺の問いに、扉の向こう側で初めて空気が揺らいだのがわかった。 「……脅されてなんか、いません」 長い長い沈黙の後、震えるような声が扉越しに聞こえてくる。否定する言葉とは裏腹にその口調は弱々しく、戸惑いと動揺がひしひしと伝わって来る。 「ふぅん。お前が椎堂にヤバい動画撮られてたのを見たってヤツが居るんだが……」 「っ!?  それは……っ!」 「まぁ、今は話したくないからそれでもいい。前の担任がどうだったかは知らん。でも……少なくとも俺は、お前を見捨てたりは絶対にしない。お前が助けを必要としているなら、全力で協力してやる」 扉に背を預け、背後にいるであろう人物に、出来るだけ穏やかな声色で語り掛ける。  信じていた相手からの辱めを受けた時の絶望や、裏切られたという怒り、深い悲しみとそれでも心の何処かで相手を信じていたいと思う葛藤は痛いほどわかるつもりだ。 まして今は多感な年ごろで、繊細な時期でもある。誰かに相談する事も出来ず一人で抱え込んでしまった事も容易に想像がついた。 救いを求めて伸ばした手を振り払われる辛さや、胸の痛みも嫌という程知っている。  世の中全てに絶望し、自暴自棄を起こして喧嘩に明け暮れるような日々を送っていたあの頃の自分のようにはなって欲しくない。 「……話をする気になったら、此処に電話してくれ。 まぁ、お前が電話かけて来なくったって、また来るつもりだけどな」 自分の電話番号と名前を書いた紙をドアの隙間から差し込み、返事を待たずに怜旺はそっとその場を離れた。

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