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男の約束

それからというもの、怜旺は仕事が終わると自宅に戻る前に、央の家を尋ねるのが日課になった。 こういう時、家が隣だと言うのは非常に便利だと思う。 母親も最初は驚いていたが、今ではすっかり慣れてしまったようで、怜旺の顔を見ると何も言わずに家の中へと入れてくれるようになり、冷たい麦茶を出してくれたりするようになった。 「……ちょっと、しつこいんだけど! アンタ暇人なのか!?」 「暇なわけあるか! こちとら、試験直前でやる事山のようにあるに決まってるだろうが!!」 最初は口も利いてくれなかったが、最近では怜旺の姿を見るなりこうして噛みついてくるようになったので随分進歩した方である。 未だに天岩戸を決め込んでいる事だけが残念でならないが、元より長期戦は覚悟の上だ。 そんなある日。 いつものように上城家のインターフォンを鳴らして待っていると、中から現れたのはいつもの母親では無く、央本人だった。 中肉中背で、どこにでもいるような平凡な顔立ちの青年だ。度のきつそうな眼鏡をしていて、全体的にもっさりとしたヘアスタイルをしている。 身長は怜旺よりも低いか同じくらいだろうか、何処となく親近感が湧いた。 「……今日は母さん、用事でいないから」 一瞬、追い返されるのではないかと思ったが、予想に反して央はそう言ったきり踵を返し家の中に戻ろうとするので、怜旺は慌ててその後を追う。 「驚いたよ。まさか会えるとは思って無かった」 「……だってアンタ。めちゃくちゃしつこいし。……今までも、何人か先生来たけど、ニ、三回来て親と話してさっさと帰るだけだったのに……」 央は怜旺の方を振り返る事無く、ぼそりと呟く。 「いつもは母さんが居るから……」 「成程な」 確かに、親には聞かれたくない話ではあるだろう。案内されるがままダイニングテーブルを挟んで向かい合うような形で腰かけると、怜旺は思い切って単刀直入に切り出すことにした。

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