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男の約束 3

「動画はそれ一回だけか? 他にも何度も呼び出されたりとかは?」 「無いです。 でも、気まずいし……、恥ずかしいしで頭の中ぐちゃぐちゃで……」 「それで不登校になったって事か」 コクリと、小さく首肯した央の瞳は僅かに潤んでいるように見えた。 「そんな事、母さんにはとてもじゃないけど言えないし……。今まで誰にも言えなくて……」 「そうか。それは辛かったな」 央の頭を軽く撫でると、彼は一瞬驚いたように目を見開き、怜旺を見た。その表情がみるみるうちに泣き出しそうになる。 「無理すんな。泣きたいときは思いっきり泣けよ。誰にも言ったりはしねぇから」 席を立ち、半ば強引に彼の頭を自分の胸元に引き寄せて背中を撫でてやれば、堪え切れなくなったのだろう。央の身体が小刻みに震えだす。 洩れ出る嗚咽を抑える事が出来ないのだろう。時折肩が上下するのを見ながら、怜旺は彼が落ち着くまで小さな背中をポンポンと優しく叩き続けた。 それにしても、動画を撮られたと言っていたから、自分のように無理やりハメ撮りでもさせられていたのかと思ったが、そこまででは無かったようで安心した。 さっきの央の口ぶりでは、圭斗の事を恨んでいるわけでは無さそうな印象を受けた。圭斗が央の事をどう思っているかはわからないが、少なくとも怜旺の見立てでは、動画さえ何とかすればこの事件は解決出来るようなそんな気さえする。 「お前は、これからどうしたいんだ? 何時までも不登校のままでいいなんて思って無いんだろう?」 落ち着いたころを見計らって、そっと尋ねてみる。返事は無い。だが、今までのような頑なな拒絶するような雰囲気は感じられない。 「学費だってタダじゃないんだ。母子家庭なのに何も言わずに学費出してくれてるんだから……迷惑かけないようにしないと」 「わかってるよ。そんな事……母さんには凄く迷惑かけてるのも全部わかってるんだ」 「学校を辞めるって選択をしてないって事は、本当は学校に行きたいんじゃないのか?」 央は黙ったまま、怜旺の問いに答える事はなかった。ただ俯いて、膝に置いた手を強く握りしめているだけだ。 その様子を見つめながら、怜旺は何度目になるかもわからなくなった溜め息を吐いた。 「よしわかった。じゃぁ、こうしよう! 俺が椎堂に掛け合って動画を削除させるから。そしたら、お前は学校に来ること!」 「えっ。でも……」 「でもじゃねぇ! 動画があるから学校に来れないんだろう? それは俺が何とかしてやるから。その代わり男なら逃げんな!前に進むんだよ。後悔しない為にも、な!」 央の頭に手を乗せ、勢いよく髪をかき混ぜるように撫でてやれば、彼は戸惑いながらもコクリと頷いた。

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