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男の約束 5
「上城央。知ってるだろ? アイツに関する動画を全部消してくれないか」
単刀直入にそう告げると、圭斗は一瞬目を大きく見開いた後、髪を掻き上げてククッと笑い声を漏らした。
「何が可笑しい?」
「いや、いきなり何を言い出すかと思ったら……。アンタ、央の動画なんかより先に消して欲しいもんがあるんじゃねぇの?」
眉間に皺を寄せムッとして睨み付けた怜旺の頬を、圭斗の指先が悪戯に撫でおろした。
艶めかしい仕草と意味深な笑みが何を意味しているのか瞬時に理解すると、怜旺は反射的にその手を払いのけて距離を取る。
勿論、自分が映っている動画を消してくれると言うのなら、これ以上嬉しいことは無い。だが、今ここでそれを言ったところで無駄骨に終わってしまうのは目に見えている。
「どうせ消す気は無いんだろうが。……俺のは別にそのままでも構わないから、上城の動画だけは消してやって……くっ……」
言い終わらないうちに顎をグッと持ち上げて上向かされ、首がみしりと嫌な音を立てる。
「可愛い生徒の為なら、自分の事は後回しでも構わないってか? ハッ、大した自己犠牲の精神だな」
息苦しさに目を細めて相手を見れば、冷徹な眼差しが至近距離から突き刺さってくる。
「アンタ、お人好しもいいとこじゃねぇか。バカなのか? そう言う偽善者は見てると腹が立つんだよ。たったそれだけの為に、わざわざこんな物騒な所まで追いかけて来やがって……カツアゲかリンチにでも遭ったらどうするんだ!」
忌々し気に怒鳴ってから乱暴に手を突き離す。
勿論、その可能性を考えていなかったわけじゃない。寧ろ、多少のブランクはあるが、恐らく大丈夫だろうと言う自信があるからこそ、ここまでやって来たのだ。
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