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男の約束 9
「ってぇな……クソっ!」
一瞬意識が遠退き視界がぐらつく。倒れ込みそうにそうになったのを何とか堪え、棒を掴んで力いっぱい引くと勢い余ってバランスを崩した男の腹に渾身の一撃を喰らわせてやった。
「ぐぇっ!」
カエルが潰れたような声を上げて男がその場に崩れ落ちるのを確認してから、がくりと膝をつく。
「ははっ、やっべ……」
慌てて駆け寄って来た圭斗に怪我はないようで、ほっと胸を撫で下ろす。
「獅子谷っ! お前何やってんだ!」
「あ? ハハッ……あー、やっぱだいぶ身体鈍ってんなぁ」
流石に、約10年のブランクは大きいようだ。
情けないことに足が震えていて、立ち上がる事すらままならない。
頭はまだガンガンするし、クラクラしてなんだか気持ちが悪い。
「あんくらい、俺にだって倒せたのに! 無茶しやがって……っ! アンタ馬鹿なのか!?」
圭斗は怜旺の前にしゃがみ込むと、悔しそうに歯噛みしながらそう怒鳴った。
「うるせ……。耳元でギャァギャァ騒ぐな。……でも、まぁ……、このザマだし、ガキに馬鹿って言われてりゃ世話ねぇな……」
言いながら何気なく頭に手をやると、ぬるりと生暖かい液体が指先に触れた。
「あぁ、さっきの衝撃で切れたか……ま、何とかなんだろ」
「何とかって、頭殴られたんだぞ! 病院行かねぇと」
ついさっきまで怒っていたくせに、その事はすっかり忘れてしまったのか慌てふためく圭斗を見て怜旺は思わず苦笑してしまう。
「なに笑ってるんだ。気でも触れたのか」
「ひでぇな。どのみちこの時間じゃ病院は閉まってるし、大袈裟なんだよ。俺の頭、すげぇ頑丈だから大丈夫だって。それより、肩貸してくんね? 膝が笑って立てねぇんだわ」
情けない話、自分で歩くのは厳しそうだった。教え子の肩を借りる事に気は引けたが、転がっている男達がいつ起き上がって来るかもわからない上に、何時までもここに居て警備員に捕まるのだけは勘弁願いたい。
「……たく、マジかよ……」
圭斗はブツクサ文句を言いながらも怜旺の腕を自分の首に回すと、ゆっくりと立ち上がらせ、怜旺の身体を支えながら長居は無用だとばかりに、ゲームセンターを後にした。
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