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気まぐれ 9

行為後、気怠い身体をベッドに横たえてゴロリと寝返りを打つと、光沢のある天井が目に映った。 改めて見てみると酷い部屋だ。全面鏡張りの室内は悪趣味極まりないし、二枚貝の形をしたベッドはファンシー過ぎてどう頑張っても自分達には似合う気がしない。 「はは……っ、ヤるつもりじゃ無かったのにな」 こんなところで自分は何をしているのか。我に返ると急に可笑しさが込み上げて来て、怜旺は自嘲気味に小さく笑って呟いた。 「何言ってんだよ。ノリノリで腰振って喘ぎまくってたくせに」 「五月蠅いっ!」 横で同じように寝転がっていた圭斗にかからい交じりに言われ、居た堪れなくて怜旺はくるりと背を向けた。 背後で、ククッと喉を鳴らす声が聞こえ同時に背後からするりと腕が伸びて来て抱きしめられるような格好になる。 「ちょっ、おま……」 「悪かったな。怪我してんのに」 耳元に圭斗の吐息がかかってくすぐったい。 「別に……。過ぎた事だから……。つか、暑苦しいから離れろ馬鹿!」 「固い事言うなって。こうしてると落ち着くんだよ」 「……チッ」 自分は全くもって落ちつかない。今まで、業務的な関係ばかりで終わったらさっさとシャワーを浴びて帰るだけの相手ばかりだった。それが、今は抱きつかれ密着されている。 (なんだこれ……) ドクンドクンと心臓の音が煩かった。顔も熱を帯びてきているのが分かる。 圭斗といるとどうにも調子が狂って仕方がない。 落ち着け、冷静になれと何度も頭の中で繰り返し言い聞かせる。だが、鼻腔を擽る圭斗の匂いや体温がそれを邪魔をする。 目の前にある鏡に映る自分の顔が直視出来ずに、怜旺は慌てて話題を変える事にした。

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