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困惑の先に 2
そんなはずは無い。自惚れるな。自分に言い聞かせる。
そもそも、圭斗が何を考えているのかなんて、自分にわかるはずが無いのだ。
だけど……もし、あの言葉に違う意味があるのだとしたら?
(いや、それはそれでダメだろう)
怜旺は心の中で頭を緩く振った。
結局、無限ループのように繰り返される自問自答に答えは出ないまま、深い溜息を吐くと怜旺は枕に顔を埋めて瞼を閉じた。
ふと、玄関の鍵を開く音が静かな室内に響いた。時計の針は20時30分を示している。
今日はもう戻って来ないと思っていたのに。
怜旺は忌々し気に舌打ちをすると、身体を反転させてドアの方に背を向けるように寝返りを打った。
足音が近づいてくる。寝たふりを決めこもうと、枕に顔を埋めたまま微動だにせずにいると、寝室のドアが開き怜旺の父親がノックもせずに押し入って来る。
怜旺とは似ても似つかない大柄で、無精ひげを生やした男がベッドの脇に腰掛けると何も言わずに怜旺の頭を撫でた。
煙草の匂いが染みついた掌がカラスの濡羽のような怜旺の髪を荒々しく撫で回す。
正直言って気持ちが悪い事この上ない。入って来た時から漂って来るアルコール臭が鼻につき、怜旺は眉間の皺を深めた。
どうせまた、渡した生活費を全てギャンブルと女につぎ込んで来たのだろう。
最近、競馬で大儲けしたと言って喜んでいたから、暫くは裏のバイトも必要ないと安心していたのに、結局はこうだ。
しばらく頭を撫でまわしていた手が、今度は寝間着の中に入ってくる。指先が脇腹から胸元へゆっくりと滑って来て、胸の突起を探り当てると指先で摘んで弄り始めた。
慣れた手つきに嫌悪感が込み上げて思わず身震いしそうになるが、必死で堪える。ここで反応してしまったら背後に居る男を悦ばせるだけだと言う事を怜旺は良く知っている。
「っ、ん……っ」
両方の乳首を同時に強く引っ張られて息が詰まった。思わず漏れそうになった声を唇を噛み締める事で堪え、怜旺は微かに身を震わせた。
「起きてるんだろう? 父親が戻って来たってのに出迎えもなしとは、つれねぇな」
「……エロジジイが……。ただいまの挨拶にしちゃ随分ねちっこいな」
怜旺はようやく口を開くと、背後の男を睨みつけながら嫌味を吐いた。すると、男は愉快そうにくつくつと笑って、指先で乳首を軽く弾きながら揶揄うように言ってくる。
「そのジジイにアンアン言わされてる淫乱はどこの誰だよ?」
「……っうるせ! アンタがいつも勝手に盛って来るだけだろうが!」
「そうか? お前だって満更じゃないだろ。いつも気持ちよさそうに腰振っているじゃないか。俺の息子は可愛い顔をしてとんだ淫乱だな、まったく……」
男は下品な笑い声を立てると、怜旺の穿いていたスウェットを下着ごと強引に引き下ろす。
この男を父親だと思った事なんて一度もない。怜旺にとってこの男は、自分を性欲処理の道具としか思っていないただの卑劣な同居人に過ぎない。
「なっ、やめ……」
慌てて起き上がろうとするよりも前に、背後から覆い被さってきた男にむりやり脚を開かせられる。
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