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困惑の先に 4

夏休みに入ると、普段騒がしい校内も人気は無くなり、まるで別の場所のように静かな空間へと変わる。 時折響いて来るブラスバンドや、運動部の掛け声を遠くに聞きながら、怜旺は補講授業を受ける面々を横目で見やり、深い溜息を吐いた。 「さっきから何を拗ねてるんだ椎堂」 「は? 拗ねてねーし!」 珍しく始業のベルが鳴る前に鼻歌を歌いながらやって来たと思ったら、教室に入って来るなりおもいっきり不機嫌そうな表情で自分の席へと座った圭斗は、一人で百面相でもしているのかとツッコミを入れたくなる程ころころと表情を変えながら、教室に入ってからと言うものずっと機嫌が悪い。 「圭斗~、なに怒ってんの生理?」 「あ? 野郎にんなもんあるわけねぇだろクソ女! 大体、学校に来てなかった央はともかく、なんでお前が此処に居るんだ!」 早速、圭斗の態度を見て、面白がって揶揄いに来た麗花がウェーブがかった髪を揺らしながら茶化すと、予想以上の反応で怒鳴り返す。 「なんでって……。赤点取ったからに決まってんじゃん」 麗花は、呆れたとばかりに大袈裟な溜息を吐き出すと、圭斗の隣の席に腰を下ろした。 「でも、珍しい。圭斗が補講受けに来るなんて。アンタなんだかんだでいっつも地味に成績いいのに、なんで?」 麗花は綺麗にネイルアートを施した指を顎の下で組んで、大きな猫目を瞬かせながら圭斗の顔を覗き込んだ。 「うっせーな。どうでもいいだろ」 圭斗は鬱陶しそうに麗花を見遣るが、彼女は気にした様子もなく人好きしそうな、自分の可愛さを充分にわかっっているような笑みを浮かべ、圭斗の机に頬杖をついた。 上目遣いに圭斗を見つめる視線には明らかな誘いを滲ませている。自信たっぷりの唇をピンクのグロスが彩り、艶めかしい仕草で小首を傾げる。 「あー……、お前ら仲がいいのはいい事だが、イチャ付くのは終わってからやってくれないか?」 「はぁっ!? ちげぇ! 俺は別にコイツとは何もねぇから!」 玲旺の呆れたような視線と、不躾な発言に圭斗は焦ったように立ち上がると、大声で否定した。 別にそんなにムキにならなくてもいいのに。 

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