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困惑の先に 9
「……ま、それもそうか」
予想どうりの反応に、思わず笑ってしまいそうになりながら怜旺は目を伏せた。それが全てを物語っているものの自分から言うのは憚られ、荷物を纏めて圭斗の前まで行くとその頭を軽く小突いてやる。
「ってぇな……。なんなんだ」
「馬鹿な事聞いてないで、早く戻れよ」
「まだアンタの答え聞いてねぇ」
まだ食い下がるつもりらしい圭斗に辟易しながら、溜息交じりに前髪を掻き上げて視線を上げた。
「ま、それはトップシークレット。つー事で」
怜旺は自分の唇に人差し指を押し当てて、悪戯っぽく笑うと、さっさと行け、と言わんばかりに圭斗の背中を押した。
「は? なんだよ、それ」
わけわかんねぇ、と憮然とした表情の圭斗を教室から追い出し、後締めをしてから教室を後にする。夏休みだからか当然と言えば当然だが、廊下に人の姿は見当たらない。何処か遠くから聞こえて来る吹奏楽部の楽器の音や、運動部のかけ声。それがけたたましく鳴り響く蝉の声と混ざり合い、蒸し暑さをより一層引き立てる。
「あっつ……」
怜旺の隣を歩く圭斗は、眉間に皺を寄せながら肩についた髪をゴムで縛りなおし、鬱陶しげに首を振った。
「そんな長い髪してんだから当然だろ」
切ればいいのに……、と思いながら怜旺が溜息を吐いて圭斗を盗み見ると、陽の光を浴びた金髪がまるでビー玉みたいにキラキラと眩しい。
「なんでその髪型なんだ? 短い方が似合いそうなのに……」
「別に。どうだっていいだろそんな事」
圭斗はそっぽを向いて短く言い捨て、黙り込んでしまう。その不機嫌極まりない横顔を見て、これ以上この話題を引きずるのはやめようと、怜旺も口を噤んだ。
そのまま長い廊下を二人無言のまま歩く。何故コイツは付いてくるのかと疑問に思うが、今更突き放すのも面倒で気にしない振りをすることにした。
それにしても暑い……。
今日は風も無くて、ただ立っているだけでも汗が流れる。首筋を伝う汗の筋が煩わしい。怜旺はワイシャツのボタンを外して、そこからパタパタと掌で風を送った。
ふと、何か言いたげに自分を見つめる圭斗の視線に気付き、怜旺は思わずそちらに視線を向けた。
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