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困惑の先に 10

「なんだ?」 「……別に」 別に、と言う割には圭斗の視線は怜旺の首筋から胸元にかけて舐めるように降りて来る。熱を孕んだその眼差しに怜旺は眉を顰めた。 「……あんま、ジロジロ見んな」 「いいだろ? 減るもんじゃねぇし……つか何? 見られて感じたのか?」 「っ!」 ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる圭斗の言葉に反応し、咄嗟に肘鉄を喰らわせる。 「ってぇな」 「……っ、馬鹿かお前はっ! 頭ん中そればっかかよ」 「だから、そうだ。つってんじゃん」 「っ、お前なぁ」 悪びれた風でもなく、あっさりと認める圭斗に呆れて言葉も出ない。 熱々のアスファルトの上にでも正座させ、説教したい。そんな気持ちになりながらじろりと睨みつけて、怜旺はもう一度溜息を吐いた。 「ハハッ、冗談だって。けどまぁ、薄いシャツから透けてるアンタの肌は、正直エロ過ぎてヤバいけどな」 その舐めるような淫靡な視線に、全身の肌が粟立って思わず息を呑む。 「たく、馬鹿な事ばっか言ってないで早く家に帰ったらどうだ」 「別に家に居たってする事ねぇし……。アンタの側に居た方が退屈しねぇからさ」 「なんだ、それ。暇つぶしの相手が欲しいなら他をあたれ。俺はお前らと違って他にもやることがあるんだ」 圭斗の言葉の裏に隠された真意を、怜旺が推し量るのは難しい。構ってちゃんかよと苦笑しつつ、シッシッと手で払いのけるような仕草で圭斗をあしらい昇降口の所で立ち止まる。 「……なぁ、今度さ夏祭り行かね?」 「行かない」 「ふは、即答かよ」 玲旺が断るのは想定内だったのか、圭斗はさして残念がる素振りを見せずに笑った。 「そう言うのはダチと行けばいいだろ。麗華なんか誘ったら喜んで行くんじゃねーの? いい雰囲気だったじゃねぇか。お似合いだと思うけど」 自分みたいなつまらない男なんかより、圭斗には彼女のような華のある女子の方がよっぽどお似合いだと思う。 怜旺はわざと茶化してそんな事を言う。すると、圭斗はあからさまに不機嫌そうな表情になった。 「なんでそこで麗華の名前が出てくるんだ。……俺は、アンタと行きたいつってんの!」 「だから、なんでだよ」 「なんでって……そりゃ……」 理由を問うと、圭斗は珍しく口籠もり視線を逸らす。何か言いにくい事でもあるのだろうか。

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