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困惑の先に 12

「……ッ」 バタバタと人気のない道を走り抜け、団地の入り口前で足を止める。 頭が真っ白になって、どうやってここまで帰って来たのかすら思い出せない。 心臓がバクバクと五月蠅いくらいに早鐘を打っているのは、走って来ただけのせいじゃない事くらいわかっている。 「なんなんだ、全く……」 滴り落ちる汗を腕で拭い、大きな溜息を吐くと、怜旺は重い気分のまま階段を上がって自宅の前までやって来た。 鞄から鍵を取り出して鍵を開ける。その音がやけに大きく響いて聞こえ、ガチャリとしたその音にすら驚いて怜旺は息を詰めた。 そのまま薄暗いリビングをすり抜けて自分の部屋に辿り着くと扉を背にへなへなとその場にしゃがみ込んだ。 なんで、あんな……っ。 何だかまだ、唇に感触が残っているような気がして、無意識のうちに唇に指を這わす。 「――……っ」 どうして、圭斗は自分にキスなどしたのだろう。 冗談にしては性質が悪いし、からかっていただけと言うには無理がある気がする。 今まで気付かなかっただけで、圭斗は自分をそういう目で見ていたのだろうか? 「……」 いや、そんな筈はない。だって、あいつが気に入っているのは怜旺の身体だけの筈だ。 そうじゃないと、困る。 圭斗が突然キスをしてきた意味を探してしまいそうになって、怜旺は慌てて頭を振って思考を散らした。 自分は教師で、アイツは生徒。本来ならば、身体の関係があること自体許されない行為なのだが、割り切った関係だからと目を瞑って来た部分が大きい。 なのに、この関係に恋心なんてものが上乗せされてしまったら、それはきっと不毛なものになる。 一番悩ましいのは、自分が先ほどの行為に対して嫌悪感を感じなかった事だった。 唇が触れ合った瞬間、一瞬頭の芯が痺れたかのように呆然とし、圭斗を突き放すと言う行為がすっぽりと頭から抜け落ちてしまっていた。 あんな誰が見ているかもわからない場所で突然キスされて、怒っていい筈だったのに、何故か身体が硬直して、ドキドキして……。指先まで震えて――。 嫌じゃ、なかった。 そんな事を考える自分に動揺して、怜旺は両手で頭を抱え込んだまま大きく息を吐いた。 「……参ったな」 そんなのやっぱり困る。だって、そんなのどうしていいか、わからない。 今はこの感情に名前を付けてしまわない方がいい……。  夏場の所為だけではない、嫌な熱を帯びる身体を自ら抱きかかえながら、怜旺は思考を拡散させるよう髪をクシャッと掻き上げ盛大な溜息を吐いて俯いた。

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