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微妙な距離感 2

増田がぼそりとそう呟くのが耳に響いて、怜旺は思わず眉を顰めた。 大勢でわいわいガヤガヤするのはどうにも苦手で、どうしても一歩引いてしまう。 一人の方が気が楽だし、人と深く関わるのは怖い。 一度自分が深く関われば、裏切られた時の傷は深いと知っているから。 友人や仲間も必要最低限の人間でいい。それが、怜旺の基本スタンスだ。 必要のないものに、無駄なエネルギーは使いたくない。そう、思ってきた筈なのに――。 まだ、この学校に来て2か月。 増田や鷲野が悪い人間では無い事位は理解しているが、慣れ合うつもりは無かった。 でも……あえて自分から敵を作るような真似をするのは得策ではない気がする。 「獅子谷先生、今度一緒に飲みに行きません? 和樹のヤツが五月蠅くって」 「……いいですよ。別に」 「そうつれない事言わないで……って、えぇ!?」 自分で誘っておいて、えぇ!? とはなんだ。 「いいですよ。一回くらい」 「ほ、ほんとに!?」 「えぇ。まぁ」 玲旺がそっけなく答えると、増田は信じられないものを見たとばかりに目を丸く見開いて口をパクパクさせた。 そんなに驚くほどのモノでもないような気がするのだが。 「やった! アイツ絶対喜びます! あ、アキラも呼んでいいですか? んー、店はどうしようかな。ナオミさんのとこでもいいけど……獅子谷先生ドン引きしそうだし……」 「……」 一体何処に連れて行こうと言うのか。一瞬、如何わしい店を想像してしまい、怜旺は苦い顔をして首を横に振った。 「あの、……出来れば健全な店でお願いします」 「え? あぁ、大丈夫ですよ。ちょっとクセが強すぎるママさんが居るってだけですから」 「……はぁ」 あ、それ。絶対お近づきになりたくない人種の人だ。……多分。 増田に任せて本当に大丈夫なのだろうか? と、一抹の不安が過る。 そうこうしているうちに、終業を知らせるチャイムが鳴り響き怜旺は手早く荷物を纏めると席を立つ。 「取り敢えず、日付が決まったら教えて下さい。 それじゃ」 妙に嬉しそうな顔をして、スマホを取り出しいそいそと何処かに(恐らく相方だとは思うが)連絡を取り出した増田を一瞥すると、不安を抱えながら怜旺は軽く会釈をしてそのまま職員室を後にした。

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