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微妙な距離感 3
それから数日が過ぎ、居酒屋で親睦会が行われることになった。自分の事を根掘り葉掘り聞かれるのはごめんだったので、怜旺はあまり乗り気では無かったのだが、相手はあの増田と鷲野……。ニコニコと嬉しそうに何度も念を押されて断るに断れず、今に至る。
週末という事もあって、駅前の居酒屋は仕事帰りのサラリーマンや学生達で賑わっており店のあちこちから楽し気に交わされる笑い声や騒ぎ立てる声が響いくる。
良かった、ナオミという人物がいる謎の店じゃなくて。怜旺が心の中でホッと胸を撫で下ろしているその目の前で、増田と鷲野は何やら楽しそうに二人でつまみに手を伸ばし談笑している。
何時も一緒に行動しているとは前々から思ってはいたが、今日は妙に距離感が近い気がする。
チビチビとビールを煽りながら、つまみの山芋鉄板焼きを箸でつついていると、横から低い声が耳に届いた。
「すみません、獅子谷先生。アイツら酔うといっつもああなんです。……まぁ、素面でもあんな感じか」
溜息交じりの声の主は、生徒達(特に女子)から絶大な人気を誇る加治という男。 モデル並みのスラリとした細身の体型に、高身長。おまけに声と顔がいい。
誰もが憧れるルックスを変え備えたその男は、増田とは古くからの親友なのだと言う。
「いえ。僕は別に気にしていません。随分仲がいいなとは思いますが」
「引いたりしないんですね」
「え?」
「……いや。ノンケの方は大抵アレを見ると一歩引いた目で見る人が多くて」
それはつまり、そう言う事なのだろうか? 薄々そうじゃないかとは思っていたが……。
「えと、間違っていたら申し訳ないんですが……二人はそう言う……?」
訊ねてみると、加治はきょろきょろと周囲を見渡した後、内緒話でもするように怜旺の耳元に唇を寄せる。
「実は、そうなんです」
「――……」
やはり。とは思ったが特に驚くことはしなかった。彼らが自分と近い存在だと知って、怜旺の中で彼らに対するハードルが一気に下がった。
だが、自分もゲイだとカミングアウトする勇気はまだない。
二人は、鷲野の方が増田の教え子で、増田に憧れ教師を目指したと言う話は以前誰かから聞いていたので知ってはいたが、その時からそう言う関係だったのだろうか?
聞いてみたい……。いや、でも……聞いたところで何になる? どうあがいても、自分は二人のようにはなれない。
ほんの一瞬、頭の片隅に先日の圭斗とのやり取りが蘇り、自然と体温が上昇していくのがわかった。
なんで今、アレを思い出すんだ!
「……っ」
「そういや、椎堂とはあれからどうなったんです?」
「ぅぇっ!? ど、どうって……?」
突然、それまでいちゃついていた鷲野から声を潜めて話し掛けられ、思わず変な声が出て、ハッとしてコホンと咳ばらいを一つする。
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