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微妙な距離感 4

「え……。もしかして俺、何か変な事言いました? いや、ちょっと前に椎堂が自分の事避けてる気がするって言ってたから……」 あぁ、なんだ。その事か。先日のアレを見られていたのかと一瞬焦ってしまった。別に焦る必要なんて何処にもない筈なのに、何故か最近自分はおかしい。どうして、こうも圭斗を意識してしまっているのか、自分で自分がよくわからない。 「いえ……。大丈夫です。相変わらず何を考えているのか読めないヤツですが、気にしてないですから」 「ふぅん……そうなんですね」 何か思うところがあったのか、どこか含みのある鷲野の言い方が腑に落ちなかったが、まぁ、嘘は吐いていないので問題はないだろう。 その後、ビールを追加で何杯か頼み、怜旺もいつもより少し飲み過ぎてしまっている自覚はあった。 普段聞かないような増田達のアレやコレやを散々聞かされ続け、怜旺はずっと聞き手側に徹していたのだが……。その反動が出たのか、今目の前の机には空きジョッキの山が並んでいる。 「そう言えば、獅子谷先生のクラスに芹沢っているでしょう? えっと、なんだっけ……芹沢小春」 「え? 居ますけど……それが何か?」 小春と言えば、麗華とよくつるんでいる清楚系ギャルの一人だ。見た目も態度も華やかな麗華とは真逆なタイプだが、やはりそこは女同士。二人はとても仲がいい。 何故急に小春の話が出たのか、怜旺は増田の問いに首を傾げながら、軽く返事を返した。 「いやぁ、ちょっとこの間小耳に挟んだんですけど……彼女、パパ活してるらしいんですよね。先生担任だし、一応耳に入れておいた方がいいと思って」 「……パパ活……。そう、ですか……」 全く、次から次におかしな噂が出て来るクラスだ。この間不登校事件が解決したばかりだと言うのに今度はパパ活だなんて……。 まぁ、自分自身が内緒でデリヘルをやっている以上、人の事をとやかく言える立場ではないけれども。 「あー。その顔は全然信じてない顔ですね?」 「いえ、……別に、そう言うわけではありませんが……あくまでも噂でしょう? 一応、頭の隅には入れておきます。……すみません、ちょっと失礼」 話題が変わって欲しかったのと、少々飲みすぎたと言う自覚が有ったので、丁度いいタイミングでトイレに避難させてもらうことにした。 「大丈夫ですか? 足元ふらついてますけど」 立ち上がった拍子によろけそうになり、慌てた加治がすかさず肩を抱くようにして支えてくれた。 イケメンは何をやってもイケメンだなぁ。なんて、どうでもいいコトを考えながら、怜旺は「大丈夫」とだけ答えて席を立ちトイレへと向かう。 今日はちょっと飲みすぎたかもしれない。元々そこまで酒に強い方では無いのに、周りの雰囲気に呑まれてつい飲みすぎてしまった。 「――大丈夫っすか? って、ぅげっ、獅子谷!?」 「あぁ?」 ふらつく足取りで、壁伝いにトイレへと向かっていると、突然声を掛けられた。なんで自分の名を知っているのかと顔を上げ、思わず目を見張る。

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