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微妙な距離感 5

そこには、紺色の法被に身を包み、カーキ色の腰下エプロンを捲いたバイト風の男が一人。明るい店内のライトに照らされた金髪がキラキラと光っていて眩しい。 「なんで……アンタが此処に……」 「ッ、それは俺のセリフだっ……バイトはウチの学校禁止だろうが。椎堂」 「……チッ」 舌打ち一つ零して、圭斗は忌々し気に怜旺を睨みつけた。 まぁ、教師にバイトをしているのは知られたくないのが普通だろう。 「まぁいい。お前が居るって知ってたらアイツらだってここを予約してなかった筈だし……。つか、トイレ何処だよ」 「おい、マジで大丈夫か? たく、どんだけ飲んだんだアンタ」 「うるせーよ。ほっとけ! いいから場所だけ教えろって」 「……そんな状態でほっとけねぇっての」 圭斗はガシガシッと頭を掻くと、もっていたトレイをその辺の棚に置き、支えるようにしてトイレへと連れて行ってくれる。 腰に回った腕が熱く、鼓動が何だかさっきよりも早くなった気がするのは、きっと酒に酔っているせいだと思うことにする。 用を済ませ個室から出ると、圭斗が腕を組んで待っていて、一瞬ギョッとして身を強張らせる。 「心配しすぎだろ」 「うっせぇな……。別にそんなんじゃねぇし! あんな状態でトイレん中でぶっ倒れられでもしたら困るから仕方なく居ただけだし! アンタを待ってたわけじゃねぇよ」 圭斗は相変わらず不機嫌というか、無愛想だった。 ふっと目が合って、数秒互いに見つめ合う。そう言えば、圭斗と話すのは久しぶりだ。あの日以来、まともに顔も合わせてはくれなくなった彼は一体どんな思いでこの数日を過ごしたのだろうか? 相変わらず、彼の瞳は何を考えているのかわからない。でも、何故か目を離すことが出来なくて――。困惑して瞳を揺らす怜旺の頬に伸びて来た圭斗の指先がそっと触れた。 ドキリとして、心臓の音が早くなるのが自分でもわかる。 「……あんた……」 「獅子谷先生? 大丈夫っすか……って、あれ?」 圭斗が何か言いかけたその時、あまりにも戻って来るのが遅かったのを心配したのか鷲野がひょっこりと顔を出した。その瞬間、圭斗は弾かれたように怜旺と距離を取り、そそくさと自分の持ち場へと戻って行ってしまった。 「もしかして、お知り合いか何かですか? それとも、新手のナンパっすかね?」 「へっ!? あ、ぁあ……! いえ、そのっトイレの場所が判らなくて聞いていただけで……っ!」 「……本当に?」 疑いの眼差しを向けて顔を覗きこんで来る鷲野に、怜旺は慌てて答える。圭斗に触れられた箇所が熱い気もしたがそれはきっと酒に酔っているせいだ。

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