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微妙な距離感 6
「気を付けてくださいよ? 先生、美人さんだから。油断してるとお持ち帰りされて悪戯されちゃいますよ」
「なっ……」
一体なにを馬鹿な事を言っているのかとジト目で睨み付ければ、鷲野がヘラりと笑った。
「ハハッ、冗談ですって。あぁ、そうそう。そろそろお開きにしようってアキラ先生が言うんで呼びに来たんですよ」
時計を見てみると時刻は21時を少し過ぎた辺り。解散するには少し早い気もするが、明日も仕事がある教師の身としてはこのくらいで丁度いいのかもしれない。
今日は鷲野達の意外な秘密を知ることが出来たし思いの外楽しかった。
もう少し、二人の馴れ初めや色々な事を聞いてみたいとは思っているけれど、それはまた別の機会に取っておこう。
会計を済ませ、一足先に外に出ると夏特有のムッとした空気が肌に纏わりついて来て、怜旺はシャツの襟ぐりと掴むとパタパタと風を送った。
「おい、何処行くんだよ。こっち」
「え?」
鷲野達を待っていた怜旺を呼び止めたのは、私服に着替えた圭斗だった。仕立てのいい白いシャツが夜目にもはっきりとわかる。
夜のネオンに照らされた金色の髪はやっぱり綺麗で、一人で佇んでいるその姿は、居酒屋よりホストの方が向いていそうな気すらする。
「お前、こんなとこで何やってんだ」
「バイト丁度終わったんだ。一緒に帰ろうと思って」
「は?」
ドキッとした。 いやいや、何を言ってるんだ。此処には直ぐ他の教師たちが来ると言うのに。
見付かったらどうするつもりなんだ。
「あれ? 獅子谷先生、何やってるんすか? マッスーがこれからナオミさんの店に行かないかって言ってるんだけど……」
背後から鷲野が声を掛けて来て、びくりと肩が震える。
どうしよう、此処で高校生の圭斗が居ると知れたら大問題になるのでは?
いや、でも私服だし、たまたま会ったと言えばいいのか? 瞬時に色々な事が頭の中をぐるぐると回って答えが見つからなくてなんといっていいのかわからず返答に困っていると、いきなりグイッと肩を引かれ圭斗の胸元に引き寄せられた。
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