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微妙な距離感 10

「……そういやお前、バイトなんてしてたんだな。ただのヤンチャしてるボンボンかと思ってたのに」 「ボンボンで悪かったな。いいだろ、別に。俺にだって欲しいもんがあるんだよ」 「欲しいもん?」 「あぁ。小遣いじゃ全然足りねぇし……。だから仕方なくだ」 圭斗はそこまで言って言葉を濁す。 欲しいものなんて、コイツなら親から言えばいくらでも買ってもらえそうなのに。 「ちなみに、何が欲しいんだ?」 「何だよ、言ったら買ってくれんの?」 「いや、買わない」 すかさず拒否の言葉を投げれば、圭斗が苦虫を嚙み潰したような顔をした。 「ひっでぇの。まぁいいや……。俺さ……。バブが欲しいんだ」 溶けかけたアイスでしなびかけたコーンを齧りながら、海岸沿いに広がる夜空を眺めながら圭斗の口から出て来た言葉に、思わず眉を寄せた。 「……は? なんでまた、バブなんて……。随分古い車種を選ぶんだな。バイクが欲しいなら、今はもっといいヤツあんだろうが」 「アレがいいんだよ。黒光りしたあの車体が……」 何処か懐かしむように目を細めて、圭斗が笑う。 「もしかして……。伝説の小さき百獣の王が乗ってたからか?」 「っ! アンタ知ってんのか!?」 ぼそりと呟いた言葉に、ハッとして圭斗が此方を振り返る。 「いや……。そいつが乗ってた車体がホンダのCB250T――通称バブってくらいはまぁ、有名な話だろ」 そう言えば、目の前にいるコイツは小さき百獣の王に心酔していると、この間、央が言っていたのを思い出した。

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