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微妙な距離感 11
「だよなぁ、すっげぇカッコよかったんだよ。小さいのにめっちゃ強くてさ、何十人も居るチンピラに一人で立ち向かってあっという間にぶっ倒して行くんだ」
話しぶりから察するに、圭斗は彼に会ったことがあるのだろう。
まるでヒーローに憧れる少年のような顔で彼は小さき百獣の王の話を語る。
「ずっと憧れてたんだ。俺もいつかああいう風になりてぇ、ってさ。……なのに、急に姿をくらましちまって……。今何処に居るかもわかんねぇ」
ふっと、寂しそうに笑って、圭斗は海を見つめる。その横顔に少し胸が痛んだ。月明かりに照らされる金色の髪が風に靡いて、キラキラと光る。
「……小さい、は余計だろ……」
「あ? 何言ってんだよ。別にアンタの事言ってる訳じゃないだろ」
ぼそりと吐き出した言葉はちゃっかりと圭斗の耳に届いたようで、何を言っているんだとばかりの表情で返される。
「……」
そうか……。そうだよな。心の中でそっと、溜息を吐く。圭斗が憧れている彼が今、何をしているのか。
真実を知った時、圭斗は何を思うのだろうか?
「……免許取得と合わせたら結構な額になりそうだな。中古でも5~60万はくだらねぇだろ」
「親に言ったら反対されんのは目に見えてるからな。将来の為の社会勉強っつー名目でバイトさせて貰ってんだ」
「……そう、か。お前、ただのヤリチンかと思ってたけど、違ったんだな」
「ふはっ、ひっで。それが教師の言う事かよ」
苦笑しながらこちらに視線を向けた圭斗と目が合う。
切れ長の美しい琥珀色の瞳と、月明かりに照らされた美しい金色が相まって、不意に目が離せなくなった。金の髪に縁取られた日本人離れした顔立ち。スッと通った鼻筋に、薄い唇。切れ長の目を縁取る長い睫毛は、目元に影を落とす程長くて、その睫毛が微かに震えているように見えた。
ゆらりと揺らめく色素のやや薄い瞳から、目が離せなくなる。
何故だろうか……。急に圭斗に触れてみたくなって、怜旺はゴクリと生唾を飲み込んだ。
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