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微妙な距離間 12
「――……」
「……獅子谷?」
圭斗の声に驚きが含まれるのがわかった。その声ではっと我に返り、慌てて伸ばし掛けた腕を戻し、怜旺は慌てて視線を逸らした。
今、自分は一体……何を考えていた?
違う違う。これは、ただの気紛れだ。酒で思考回路が麻痺しているだけだ。だ
から、その気紛れのまま彼にみたいと思ったなんて、絶対に在り得ない。
「……悪い。やっぱちょっと飲みすぎてんのかな」
「なんだよ、ヤりたくなったんなら相手してやってもいいけど?」
はぁ……。と溜息を吐いて額を押さえていると、圭斗はくつくつと喉を鳴らす様に笑いながら耳元でそう囁いて来た。
「んなわけないだろっ!」
耳朶に唇が触れそうな程の至近距離で囁かれ、背筋がぞくりと粟立つ。
かぁっと熱が顔に集中するのがわかった。慌てて身体を引き離し、そのまま彼の肩を押すと圭斗は小さく笑っていた。
その余裕が腹立たしくありつつも妙な色気を孕んだ笑みにドキリと心臓が跳ね、それを誤魔化すように圭斗に背を向け一歩踏み出した所で腕を掴まれる。
「ちょ、なんだよ」
そのまま引き寄せられ、油断しきった身体は何の抵抗も出来ずに圭斗へと抱き込まれた。
「ちょっ、おい! お前何してっ……離せって!! 誰か来たらどうすんだっ!」
「そんな警戒すんなよ。いくら何でもこんな所じゃ何もしねぇって」
「お前のその言葉を信じろと?」
すぐ隣で授業をしているのに空き教室で犯したり、テスト中にバイブを挿入することを要求してくるような男の何を信じろと言うのか。
「ははっ、まぁ確かに」
「むしろ今まで信用があったと思ってんのか」
ジト目で睨み付けると、圭斗は怜旺を腕の中に閉じ込めたまま困ったと言うような表情をして頭を掻いた。
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