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思い出 5

大我と知り合ってからと言うもの、毎日が楽しくて仕方が無かった。空いている時間を使ってバイクを弄る大我の手伝いをするのは嫌ではなかったし、大我の店に集まって当時の仲間たちと喧嘩したり、バカ話をしながら過ごす何でもない日々が幸せだった。 自宅に戻るのが億劫になって、怜旺が友達の家を転々としている事を知った大我が店舗の奥にある空き部屋を自由に使っていいと言ってくれた時は、純粋に嬉しかったし、あの悪魔から解放されると安堵したのを覚えている。 父親は大我に心酔していく怜旺を見て「お前は騙されている」と何度も喚いていたが当然聞く耳など持ち合わせておらず、清々とした気持ちで荷物を纏めて家を出た。 大我は恐らく、怜旺の淡い恋心に気付いていたのだろう。閉店後のバックヤードでひっそりとキスを交わし、身体を重ね合うような関係になるまでそう時間はかからなかった。初恋の人との甘く爛れた蜜のような日々。日中は普段どうりを装い、誰にも知られることのない二人だけの秘密の関係というものはとても刺激的で、今まで満たされることがなかった怜旺の心に淡い光を灯してくれた。 怜旺が15歳の誕生日を迎えた日、プレゼントと称して大我から送られたのがホンダのCB250T――。バブだった。 愛車を手に入れた怜旺は仲間たちと夜な夜なバイクを乗り回し、怜旺はめきめきと頭角を表して行った。今なら何でも出来るような気がしたし、大っ嫌いな父親だってぶちのめせる自信があった。 自分に親なんて必要ない。欲しいものは自分で手に入れる。この先の人生は全て自分のものだ。 大我の存在は怜旺にそんな自信と希望を与えてくれたのだ。

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