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思い出 7
付属品を陳列している棚の片隅に薄明りに照らされた大我の後姿を発見し胸が躍る。
「大……」
だが、呼び掛けようと口を開いた瞬間、その背中に回された細い腕に気付き思わず言葉を飲み込んだ。
「ねぇ、本当に良かったの? あの子にバイクなんてあげて。大我のお気に入りだったんじゃないの?」
「いいんだよ。あんだけヤンチャしてんのに何時までもママチャリじゃハクが付かねぇだろ。あいつ、あんな綺麗な顔してるくせにめちゃくちゃ喧嘩強いしさ」
「……ふーん。建前はそうだろうけど。それ、本音?」
薄明りでよく見えないが遠目から見ても仲の良さそうな男女が身を寄せて談笑しているのが伺える。ただ、妙に二人の距離が近いように感じるのは多分、大我が女の腰に腕を回しているからだろう。
「あー、まぁ……。贖罪の意味もあるっちゃぁあるけど」
「彼、貴方好みの顔してるもんね。男の子なのに陶器みたいに白い肌にお人形さんみたいなキレイな顔。まだあどけなさが抜けてないのに妙に色気が漂ってるって言うか……」
「だろ? やっぱお前にもわかるか?」
「わかるわよ。中学生のくせにやたら大人びてるし。まさか、あの子に手を出してないでしょうね?」
「……馬鹿言え。愛してるのは、お前だけだよ――」
囁くように唇を寄せた大我が女の唇に自分のそれを重ね合わせている。
今、目の前で起こっている出来事がなんなのかを理解するのに時間を要し、頭の中が真っ白になった。
大我と仲睦まじく会話をしている女性は、怜旺も店で何度かあった事があった。だが、直接大我から紹介されたわけでもなかったので、常連の客か何かだとばかり思ってた。
その時は、やけに綺麗な人だなとは思ったものの、怜旺に興味を示すことはなかったし、大我も何も言わないので特に気にも留めてなかった。
だが、今目の前で繰り広げられている光景は一体何だ? 男女の睦言は止まらない。
楽しそうに談笑をしながら、何度も唇を重ね合う二人を見ているうちに顔が強張り、全身から変な汗が出て来た。重大な事実に気付いてしまったのだ。
その彼女のお腹は明らかにふっくらとしており、妊婦であるということが窺えた。
「予定日もうすぐだな」
「そうね。貴方もパパになるんだから、ちゃんとしなきゃダメよ?」
「まかしとけって」
楽しそうに会話を交わす二人を目の当たりにし、鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
「うそ…嘘だ……そんなの……っ」
彼が既婚者だったなんて、信じたくない。
そんな話、一度だってしたことなかったし指輪だってしていなかったのに!
「……好きだって、言ってくれたくせに……っ」
何か悪い夢でも見ているのだろうか? それとも、新手のドッキリか何かだろうか?
悪い夢なら今すぐにでも醒めて欲しい。
幸せそうな笑顔を浮かべる二人これ以上見ていられなくて、震える足でそっと店を後にすると、事実をうまく自分の中で処理しきれないままバイクに跨り、無我夢中で走り出した。
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