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思い出 9

大柄な少年が、蹲っている少年の脇腹を目掛けて蹴りを入れる。 一度は見て見ぬふりをしようかとも思った。だが、小さい悲鳴が公園内に響き渡り、幼い子供が不良に絡まれている様子を目の当たりにして、いても経っても居られずに足は自然と彼等の許へと駆け出していた。 「……何やってんだよ。そんな小さなガキ相手に」 「あん? んだよテメェ。部外者はひっっこん――ぐぁッ」 苛立ちがピークに達していた怜旺の一撃で、男がどさりと蹲る。 鳩尾への一発でダウンするなんて、レベルが知れている。 「……っの野郎!」 仲間をやられて血が上った男がナイフを振りかざして怜旺に襲い掛かる。 相手は、怜旺が素手で尚且つ小さいからという油断もあったのかもしれない。だが、あっさりと腕を捻られて地面に崩れ落ちた。 怜旺はナイフを蹴り飛ばし更に蹲る男の頭を踏みつけて地面に叩きつける。男は身体を大きく震わせた後、そのままぐったりと弛緩した。 「なっ、何モンだよアンタ……」 「俺が誰でもいいだろ。お前らには関係ねぇ」 湿度が高いせいか纏わりつくような風が不快で仕方なく、髪を掻き上げて男を睨みつける。 「俺は今、すこぶる機嫌が悪い。今すぐに消えろ。そしたら見逃してやる」 「くっ、お、覚えてろ!!」 最後の悪あがきか、倒れ込んだ男が捨て台詞を吐きながら這いつくばってその場を離脱する。 小心者の典型的パターンで心底呆れつつ、足元で蹲っている子供を怖がらせないようにその場でしゃがみ込んで視線を合わせた。 「……おい、ガキ。大丈夫か? 安心しろ。もうアイツらは居ねぇから」 「ほ、ほんと?」 蹲っていた少年が、恐る恐る顔を上げ不安げに怜旺の顔を見つめてくる。年の頃は幼稚園か、小学校低学年くらいだろうか? 近くに親らしい人影は見当たらず、怜旺は首を傾げた。 何故、こんな時間にこんな幼い子供がこんな場所に居るのだろう? 迷子か何かだろうか?

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