138 / 342
思い出13
それからと言うもの、怜旺はより一層荒れた生活を送っていくようになった。
何処にも自分の居場所を見つけられず、喧嘩に明け暮れる日々。何度か自分の所に来てくれと頭を下げに来た族も居たが、元々集団行動は苦手だし、組織に属するという事に対して嫌悪感があった怜旺はそれら全てを断り続け、道場破りのような真似をして手当たり次第に戦いを挑んでいた。
そんな風に素行不良を繰り返している間に、いつの間にか怜旺の名前は各界隈に知れ渡り「小さき百獣の王」の異名を得て恐れられるまでになった。
「……たく、どいつもこいつも。弱いくせにつるむしか脳の無い奴らばかりだな……」
不満を漏らしながら、怜旺は懐から煙草を取り出すと口に咥えてライターで火をつける。何をやっても満たされない生活に嫌気がさし、最近では顔を見るだけで逃げていく輩も多く喧嘩をしてもほとんど発散することができないでいた。
このまま闇雲に動き続けても仕方がないのは頭では理解しているのだが、家には居たく無かったし、かといって行く当てもない。
自分に手を差し伸べてくれる存在を求めてはいるが誰でもいいわけでは無い。
反社に加担する気は無いし、誰かに飼われるのも真っ平御免だ。
ただ一つ望んでいるのは、家族のように無条件で自分を愛してくれる存在。打算や見返りなど無い。ただ、ずっと側に居て自分を受け入れてくれる存在が欲しかった。
そんな人間、何処にも居ないという事は頭ではわかっていても時折どうしようもないくらい寂しさが募って、まるで迷子になったような気持ちになる。
自分という存在を誰かに認めて欲しい。そして、愛して欲しい。
けれど、現実にそんな人物など現れるはずもなくて。怜旺は苛立ち紛れにチッと舌打ちをした。
「……うっぜぇ」
ふうっと吐き出した煙が夜の闇に溶けていく様をぼんやりと見つめていたその時。
「……小さき百獣の王。だな」
「あ? ちげーよ。人違いだ」
闇に紛れるように背後に佇む人影。闇夜に光る銀色の双眸に声を掛けられ、また来たのかとうんざりして息を吐く。
ともだちにシェアしよう!