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もしかして……? 5

怜旺はひっそりとため息を吐くと、2学期初日と言う事で簡単に連絡事項を伝えHRを終わらせ教室を出た。 教室内はクーラーが効いている為そこまで気にならないが、一歩廊下に出てみればむわりとした熱気が押し寄せてくる。 「暑い……」 思わずそう声に出して呟きながら、シャツの裾を捲ってパタパタと風を送り込みつつ、怜旺は職員室へと向かおうと足を進めた。 少し歩くだけでじわりじわりと汗が滲み出てくる暑さに辟易しながら、何気なく外へと視線を移せば見慣れた金色が目に飛び込んでくる。 「アイツ……あんな所でなにやって……」 圭斗は駐輪場の一角で佇んだまま微動だにしない。誰かを待っているのか? いや、あの位置は今朝、怜旺が慌ててバイクを停めた場所じゃなかっただろうか? まさかあの後、わざわざ確認しに行ったのか? もしかして、自分が伝説の男だと気付いたとか? 一瞬そんな事が頭を過ったが流石にそれは無いだろうと、すぐに自分で否定する。 黒いバイクなんて巷ではいくらでも走っているし、バブ自体もそこまで珍しい車体では無い。 きっと、自分がいつか買いたいと思っていた車種だったから少し気になっただけだ。 そもそも、小さき百獣の王と呼ばれた伝説の男は、肩につくかつかないか位の金髪。女性かと見紛う程の美貌の持ち主。 敢えて目にかかるくらいにまで伸ばした前髪とさっぱりと短く切りそろえた黒髪の自分とは似ても似つかない。 周辺一帯のヤンキーを制圧した男が真面目な教師に擬態しているとは普通誰も思わないだろう。 大丈夫。今まで誰にもバレたことは無いのだから年代の違う圭斗が気付く筈が無い。 でももし――。万が一、圭斗が自分だと気付いたとしたら。 ずっと憧れていたと言う男が、こんなデリヘルなんてやっている人間だと知ったら圭斗はどう思うのか……。 裏切られたような、悲しい顔をして軽蔑される? それとも、呆れて離れていくのか……。 考えれば考えるほど、圭斗の反応が怖くてゾッと身震いするような悪寒が怜旺の背中を駆けた。 いや、待て。別に圭斗にどう思われようと自分には関係のない事じゃないか。軽蔑や嘲笑なんて馴れている筈だ。 それなのに、何故……知られるのが怖いと感じてしまうのだろうか。 「セーンセ。こんな所でなに立ち止まってるんですか?」 答えの出ない自問自答にグルグルと頭を悩ませていると、突然背後から声を掛けられてハッと我に返る。

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