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もしかして……? 6

ゆっくりと声のした方を振り返ると、そこには不思議そうな顔をした都築が立っていた。 「えっ、あぁ……何でもないんだ」 「何でもないって事無いでしょ。一体なにを……って、あれ? 椎堂君……?」 「……ッ」 都築が言葉の途中で、駐輪場に居る圭斗に気が付いてしまった。別に隠す必要なんて無いのに何故か見ていた事を知られたくないと言う思いが働いて怜旺は咄嗟に視線を逸らした。 「ねぇ、センセーってもしかして……」 「はっ? ば、馬鹿! 違うからな! 別にアイツの事なんて見てないしたまたま通りかかっただけで……」 「ハハッ、センセーウケる。動揺しすぎじゃないですか? 僕、まだ何も言ってないですって」 しまった。と気付いた時には後の祭り。圭斗を見ているのを誤魔化すつもりが、最も不必要な事を言ってしまった。 都築はクリッとした目を細め、口元に手を当てると声を出さずに小さく肩を震わせながら笑っている。 ニヤニヤとする都築の視線に耐えられず、怜旺は仕方なく深いため息を吐くとガシガシと乱暴に頭を掻いた。 「センセーっていっつも椎堂君の事気にしてるでしょ」 「な……っ」 突拍子もない事を言いだした都築に、怜旺は思わず言葉を失った。 咄嗟に否定の言葉が出て来ずに狼狽えていると、都築が更に目を細めてじーっと此方を見つめて来た。 何か言って誤魔化さなければ。そう思うのに、こういう時に限って喉がカラカラに乾いて上手く声が出てこない。 「先生って椎堂君と仲いいですよね……?」 「は? はぁっ? そ、そんなわけ無いだろう!?」  都築がぽつりと零した言葉に、怜旺は思わず声を裏返らせた。 何処をどうやったら圭斗と仲が良く見えるんだ。絶対におかしいだろう!? アイツと仲が良いなんて有り得ない。ただ、圭斗が何か悪さしないか気になってるだけで、それ以上の感情なんて……。 『好きなんだよ。アンタの事が』そんな圭斗の言葉が脳裏に浮かんで、怜旺はヒュッと息を呑んだ。 なんで今、あの時の言葉を思い出すんだ。 一人であたふたしてブンブンと首を振る怜旺は、都築がほんの一瞬だけ駐輪場に佇む圭斗へと向けた暗い視線に気付く事は出来なかった。

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