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もしかして……? 7

「ちょっとツラ貸せよ」 圭斗がそう声を掛けて来たのは、怜旺の授業が終わった直後のことだった。 2限目以降、きちんと教室に戻った圭斗は、今日は真面目に自分の授業にも参加していた。 きちんと聞いているのかは定かでは無かったが、授業中その視線を一身に浴び続けていた怜旺は、今更何の用だとばかりにうんざりと息を吐く。 「教師に対しての言葉がなってないな」 どうせ聞きたいのはあのバイクの事だろう。そ知らぬふりをして教卓の上を片付けながら怜旺がそう答えれば、圭斗はあからさまに不機嫌そうに眉間の皺を深くした。 「聞きたいことがあるんだって」 「……授業の中身以外の質問には答えないぞ」 「てめ……っ」 怜旺が伊達眼鏡のフレームを片手で押し上げながら淡々とした口調でそう答えると、それが勘に触ったのか圭斗が地鳴りの様な低い声を喉の奥から絞り出した。 「相変わらず血の気が多いな。そんなんじゃ女にモテねぇぞ」 「うるせぇよ。別に女なんて……って! そうじゃなくて!」 シレっと教室を出ようとした怜旺の腕を掴み、圭斗が必死の形相で引き止めてくる。 「何で話を逸らそうとするんだ」 「……別に。そう言うわけじゃない」 「じゃぁなんで……」 そんなの、あの話題に触れて欲しくないからに決まってるだろ。 やっぱりアレで来るべきでは無かったと後悔しながら、怜旺は深いため息を吐いた。 折角久しぶりに話しかけてきたと思ったら、バイク、バイクって……。 こっちはどんな顔をして圭斗と会えばいいのかここ数日頭を悩ませていたというのに……。 「とにかく、俺は忙しいんだ。話しなら放課後に聞いてやるから」 ふと、ジッと二人のやり取りを凝視している視線に気付き、怜旺は圭斗の腕を引き剥がしながら眼鏡のブリッジを指先で押し上げた。 これ以上、此処で不毛なやり取りを続けるわけにはいかない。

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