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もしかして 10

「あー、やべ……想像以上だわ。顔、にやける」 「え……?」 ボソリと圭斗が何かを呟いた気がして、怜旺が聞き返すように視線を向けた。 その瞬間、グイッと腕を引かれ、気付いた時には圭斗の胸に抱き寄せられていた。 「ちょ、ま……っ、なんだよいきなりっ! はな……」 突然の事に驚いて圭斗の胸元を押し返そうとしたが、背中に回された手がそれを許してくれない。 密着する身体の熱に思考が追い付かず、次第に顔に熱が集中していくのが分かる。 だが、此処は学校だ。いくら人気の少ない駐輪場だとは言ってもいつ誰が見ているかわからない。 特に、鷲野あたりに見付かったら面倒くさい事になりそうな気がする。 「離せ馬鹿っ」 「嫌だ。つったら?」 「な……っ」 意地の悪い笑みを浮かべたまま、圭斗が態とらしく甘さを含んだ声で耳元で囁いてくる。 その低い声音にゾワリと背中が粟立ち、怜旺は息を飲んだ。 「本当は、何回も連絡しようと思ったんだ。けど、なんて送ったらいいのかわからなくて、結局迷ってるうちに新学期になっちまった」 苦笑して困ったように頭を掻く圭斗に思わず毒気が抜かれてしまった。 なんなんだその恋愛初心者のような理由は! 童貞でもあるまいし。 「……お前、案外馬鹿なんだな。いや、馬鹿なのはわかってたけど……」 「あぁ? んなことねぇだろっ……好きなヤツにどう接したらいいかわからねぇってのは普通だろ?」 「……っ、そんな簡単に好きとか言うんじゃねぇよ馬鹿っ」 普通がどういうものかと聞かれたら怜旺にだってわからない。 ただ、何度も好きだと言われるのは心がざわついて落ち着かなくなる。

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